姫様と二人
「じょ、城下で爆発が起き、家屋が炎上している模様!至急救援を…!」
息を切らし、血相を変えた使用人が、更なる残酷を告げる。
どう頑張ったって、笑えない日もある。
でも、姫様が沈んでいたら、誰も笑ってくれないだろ!
あくどい神様の試練は続く。
落ち込む前に、桜姫として、オレがすべきことは?
「手のあいている人は今すぐ城下へ向かってください!」
「桜様!」
突然、桜が叫び出すものだから、皆目を丸くして驚いている。
屋敷にはまだ、桜に不信感を抱く人がいるのかもしれない。
だけど、お願いだよ。
これ以上、大切な人達を傷付けないでくれ。
「信玄様の国に暮らす人々が、これ以上の苦しみを味わっちゃいけないんです。だから、誰一人として死なせないで…!でも、皆も、怪我をしちゃいけませんよ」
「…御意!」
「見張りの方は、怪しい者を見付けたら捕まえてください!雪ちゃんは二人を見ていてね。私も、城下に行ってくるから」
城内と、城下町と。
見えない敵の狙いは定かではないけど。
信玄様を慕ってくれる甲斐の人達、平穏に暮らしていた彼らの生活を乱すことは許せない。
何度も頷く雪ちゃんの手を軽く握る。
オレも早速行動を開始しようと、踵を返した、ら、
「桜様は、駄目です」
「才蔵さん!どうして!?」
またかよ!
この人、佐助さんより過保護じゃないか!?
あれもこれもダメダメって、もう聞きたくない!
確かにオレに出来ることなんて限られているし、数えるほども無いけど、緊急事態に部屋でじっとしているなんて、最悪だ。
「才蔵さん…っ…」
「そのような目で見ても駄目ですよ。私は、桜様を守るよう命を受けました。桜様の身に何か起きれば私が叱られます」
「それ、誰の命令ですか?」
「…猿飛様です」
なんだよ…佐助さん、他の忍びに命令するぐらいなら、自分で残って桜を守れよ!
桜に、オレに…心細い想いをさせるな!
上からの命令は絶対だから、覆せない。
忠実に仕えているなら尚更だ。
だけど、桜は信玄様の娘。
身分をひけらかしたりしないから実感も湧かないけど、桜は相当偉いんだろう。
なら、一か八か。
「これは姫の命令です!聞いてくださらないなら、減給にして、ってお願いしちゃいますよ」
「……困ります」
「別に…私が城下へ行っても、今は才蔵さんが守ってくださるんだから問題ないでしょ?私に何かあったら、佐助さんにこっぴどく怒られるんじゃないですか?」
「……、」
…桜の権力って、凄いんだな。
忍びに減給は禁句らしい。
今回だけだから、二度と卑怯な手段で脅したりしないから、許してくれ!
END
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