姫様と二人



「才蔵と申します。外は危険ゆえ、桜様は…」

「きりがくれ?」

「…そうですが、私のことを御存知でしたか」


幸村様に仕えた忍び、真田十勇士。
メジャーどころって言うか、オレがその名前を耳にしたことがあるのは、佐助さん以外だと霧隠才蔵だけだ。


「才蔵さん、止めないでください。この目で皆の無事を確認しなくちゃ、心配で…」

「駄目です」


この人を説得するには、途方も無い時間がかかりそうだ。
ゆっくりしていられないのに!
目を瞑ったら、頭に浮かぶのは地獄絵図。
桜の大切な女の子達が、傷付いてしまったかもしれないのに…!!


「桜様」


才蔵さんに手を掴まれる前に、オレは全速力で廊下を駆けた。
きっと、逃げ出すオレを捕まえることは容易だったはず。
だけど才蔵さんは見逃してくれたらしい(しっかり後を追いかけてくるけど)。


「ひいさま!」

「雪ちゃん!大丈夫!?怪我してない?」


今にも泣き出しそうな彼女が居た。
辺りを見た限りでは、煙は充満していたけれど、幸いなことに火の手はあがっていなかった。
悲鳴をあげて、ざわめく人々。
混乱の中、白い布を持って走る女中さん。

顔面蒼白といった感じの雪ちゃんは小刻みに震え、オレにしがみついてくる。
涙が…、彼女の泣き顔を、初めて見た。
雪ちゃんはオレよりも年下なんだ。
桜の侍女だからって、こんなときまで気丈でいられるはずがない。


「ひいさまっ…空と月が、怪我を…」

「二人が!?そんな…」


空ちゃん…月ちゃん。
女の子に怪我をさせるなんて…、どう責任とるんだよ。
いったい誰が…何のためにこんな酷いことをしたんだよ!


「爆弾の威力は人一人が吹き飛ぶ程度でした。侍女の二人は爆風に飛ばされただけでしょう。大事には至っていません」

「才蔵さん…」


淡々と解説してくれているけど…、威力が小さかったから火事にもならなかったし、被害は少なかった。
だから良かった、なんて言えない。
人が傷付いたんだよ。
雪ちゃんも…皆も、怯えているんだ。

姿の見えない悪魔の狙いは何だ?
城を乗っ取ることか?信玄様の宝を奪うこと?

皆の迅速な対応により、二人の手当てはすぐに行うことが出来た。
ショックにより気絶してしまったんだけど、それほど重傷ではなかったようだ。


 

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