姫様と二人



政治なんて難しいことは全く理解出来ないけど、オレが見る限り、信玄様や謙信様が、天下統一を目指しているようには思えなかった。
領地を広げるため他国を攻めるより、自国を守ることを優先させている。

じゃあ、どうしてだよ。
何のために戦争を始めるの?
オレも腹を括ったつもりでいたけど、いざ現実が目の前に迫ったら、怖くてたまらなかった。

敵を倒し、北条の殿様の首を取って、そしたら、小太郎さんも…
武田軍が勝てば小太郎さんが負ける。
小太郎さん達が勝ったら…佐助さんが…


(…今のお前が成すべきことは、甲斐の姫として、武田の勝利を信じ、信玄様が不在の城を守り通すことだ)


甲斐の姫として。
桜の口からその言葉が聞けるなんて…、素直に、嬉しかった。
あんなにも、姫をやめたがっていた桜が言ったんだ。


(分かったよ、頑張ってみる)

(心配せずとも、小太郎は簡単には死なぬ。何せ伝説の忍びだからな)

(…うん。信じるよ…)


皆が皆、傷付いてほしくないと思ってしまうのは、都合の良い考えだ。
でも、死なないで。
誰一人、死なせないでくれ。

神様は時に残酷だ。
オレのささやかな願いなんか、聞き入れてくれないんだ。

鉄砲の弾や矢が降り注ぐ戦地じゃなくたって、家の中でだって怪我をする。
いつどこで何が起きるか分からないんだ。
ましてや戦国時代。
オレの理屈も常識も通用しない。


「……っ!?」


その時、破裂音が聞こえた。
ガス爆発のような、床にまで振動が伝わってくる、激しい轟音だった。
鼓膜が悲鳴をあげるほど、耳が痛い。


「ってぇ…!な、何なんだ?」

(分からぬ。だが、侵入者か…?)

「マジかよ…!」


侵入者だって?
信玄様が居ない今を狙ったっていうのか?
様子を見ようと廊下に出たら、敷地内の建物からもくもくと煙が上がっているのを確認した。

火薬の匂いが、風に乗って飛んでくる。
背筋が凍りそうになった。
あそこは、侍女…雪ちゃんたちが寝泊まりをしている一郭じゃないか?


「桜様、部屋にお戻りください」

「だって、雪ちゃん達が…!あれ、あの…貴方は…」


噴煙をあげる場所が場所だったから、居ても立ってもいられなかった。
オレを呼び止めたのは、女中さんでも使用人でもなく…忍び?

佐助さんのような派手な装束じゃない、真っ黒な服を身に纏った男。
これまで、オレに話し掛けた忍びは佐助さんしか居なかったから驚いてしまった。


 

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