姫様と二人



(普通に会話出来たのかよ…何で今まで黙ってたんだよ)

(先程のように取り乱される可能性があった。そこを佐助に見られたら、絶望的だと思わぬか?)


何も言い返せません。
その通りだよな…オレは人前ってことを忘れて、うっかり話しかけてしまいそうだ。

じゃあ…オレが雪の森で転んだ時に、小太郎さんを呼ぶ桜の声が聞こえた気がしたのは、勘違いじゃなかったんだな。


(雪が佐助は屋敷に居ないと言った。それが確かだと思ったから、私はお前に言の葉を投げかけたのだ)

(そうか…なら、丁度良かったんだな)


忍びである佐助さんは誰よりも勘が鋭い人だ。
桜がここまで気にして…警戒しているぐらいだしな。
本当にグッドタイミングだったと思う。
今のうちにこの、桜との会話に慣れておけば、佐助さんの前でも自然に桜とコンタクトが取れるようになるはずだ。


(お前に言わなければならぬことがあるのだ。できる限り、落ち着いて聞け)


桜って普段から冷静だけど、こちらが緊張してしまうほど真面目に、真剣に語りかけてくる。
佐助さんを警戒してずっと身を隠していた桜が、こうして話しかけてきたんだ。
夢の中では話さなかったのに、あえて今…、それってつまり、本来なら秘密にして、隠しておきたかったってこと?


(お前は気付かないだろうが…雪は嘘をついていた。佐助達が向かったのは越後ではなく、小田原だ)

(雪ちゃんが嘘を…?しかも小田原、って小太郎さんが仕えている北条の…、真逆じゃん?)

(信玄様に口止めされているのだろう。現に、お前が倒れてから三日は過ぎているのだぞ)


マジで!?オレ三日も寝たきりだったのか!?
そもそも、あれほど具合が悪かったのに、一日で回復出来る訳が無かったんだ。


(待てよ、北条ってことは…、信玄様達は、戦争をしに行ったのか!?)


北条は近日中に戦を起こすと、桜が言っていたのを思い出した。
まさかその相手が、信玄様だったなんて!!
幸村様も佐助さんも、オレが眠っている間に、出立してしまったんだ。
どうしてオレに黙って…いや、桜に見送りをさせてくれなかったんだ。
殺し合いに行くんだぞ。
怪我じゃ済まないかもしれない、二度と会えなくなってしまうかもしれないのに、何の言葉もかけられなかった。


 

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