真っ直ぐ全速力
「某は桜殿に嫌われていると思い込んでおった。いや…今の桜殿には記憶がない…、いずれ再び、桜殿は某を嫌ってしまうのだろうか?」
「そんな…私、幸村様に酷いことを言ってしまったのですか?」
「……暑苦しいから近寄らないで、と」
なんてことを言いやがる!…と思わず桜を非難してしまいそうになった。
それは明らかに…桜が悪いだろう。
率直に感じたことだけど、幸村様に非は無いと思う。
確かに幸村様は暑そうな人だけど、それを突き放すような言葉で指摘することそのものが残酷だ。
もしかして、他の人にも同じように接していたのか?
流石に、限度ってものがあるだろう。
桜、聞いてるか?
もうちょっと言葉は選ぼうな。
幸村様の件に関しては、99%桜が悪いぞ?
残りの1%は否定しようがない幸村様の熱さ、とでも言っておこう。
「申し訳ありませんでした。幸村様、勝手なことだとは承知しております。不甲斐ない桜を許してはいただけませんか?」
頭を下げて、精一杯、反省しているんだとどうにか伝えようと試みる。
周りで見ていた人達も信じられないと、驚愕した表情を浮かべていた。
今のところ、選択肢はひとつだけだ。
オレと桜姫が生きるためには、此処に世話になるしかない。
だからこそ、この荒れた雰囲気を、桜が冷たい性格だって印象を、オレが変えてやらなくては。
本当の意味で桜が戻ってきたとき、悲しい想いをさせたくないから。
「桜殿……!」
幸村様は目をキラキラに輝かせていた。
こ、これは、感激している…のだろうか。
「実は某、桜殿と話をしたかったのでござるよ。今度、よければ茶屋に、ご一緒願いたいと…」
「良いですね!是非ご一緒させてください。私、甘いものは大好きですよ」
「それは誠でござるか!?某も甘味は大好物でござる!」
良い感じ、かもしれない。
菓子の話で盛り上がって、幸村様なんてすごく嬉しそうな顔をしている。
今まで怖がられていたのも、忘れてしまうぐらいの激変。
元々幸村様はお優しい方なんだろう。
本当は、桜と兄妹のようになりたかったのかもしれない(なんたって信玄様の娘なんだから)。
「ま、仲直りできてめでたしめでたしってことで!姫様、部屋に戻るよ」
「佐助!某はまだ桜殿と甘味について語り合いたいでござる!」
「昨日から姫様は寝てないの。休ませてあげなきゃでしょ」
そういえば、眠い。
屋敷についてからバタバタしてたから、今になって酷い眠気が押し寄せてきた。
身体の力が抜けて、ふらふらすると思ったら、そこで意識が途切れてしまう。
「……はっ、破廉恥でござるううぅうっ!」
よく理解出来ない絶叫も無視して、オレはすぐに眠りに落ちていた。
真っ赤な顔で慌てているらしい、幸村様の腕にしっかりと抱き止められて。
END
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