姫様の夢 その8
「好きな人に嫌われたくないのは、オレも同じなんだよ。桜に怒られただけで、死ぬかと思ったし」
「何だ。お前は、私が好きなのか?」
「うん、好きだよ。当たり前じゃないか」
間も置かずに気持ちを告げれば、桜は呆気に取られているようだった。
こういうのって、面と向かっては言いにくい言葉だけど…オレは桜が好きだ。
好きだからこそ幸せになってほしい。
桜が佐助さんと結ばれたら…それこそが究極のハッピーエンドだろ?
「もう一つ聞く。お前は…佐助を好いてはいないのか?」
「いや、好きだけどさ。オレ男だし、そもそも生きる時代が違うんだよ」
恋愛的な意味で、オレが佐助さんを好きになることは有り得ない。
桜は心配し過ぎなんだって!
自分で言うが、オレは特殊な存在だ。
たとえこの世界で恋をしたとしても、いつ別れが訪れるかも分からないんだ。
住む世界が異なるのだから、割り切らなければいけないことなんだけど。
大切な友達との別れだけでも辛いのに、誰より特別な人が出来たら…帰れなくなる。
たまにドキドキしてしまうのは、佐助さんに恋する桜の目を通して見ているから、それ以外に理由は考えられないだろ!
「…無知なのだな」
「なっ、オレ無知ってほどバカじゃ…」
「お前は幸村様以上だ。私のことばかりではなく、自分にも目を向けるべきだ」
ゆ、幸村様以上の、無知…!?
何でだろう、激しく凹んできた。
つまり、恋愛音痴ってことでしょうか?
「いいって別に…オレにはチャーリー君がいるし…チャーリー、君…」
「……?」
「オレ、チャーリー君に夢中になって…現実逃避していたんだよな…」
苦しいことを思い出してしまった。
桜にお前のせいだ、って言われたせいか、今までで最も悲しかった出来事、忘れようとしていた記憶が、脳裏に蘇った。
チャーリー君を逃げの道具にしたのは、さくらを失ったばかりの中学生のオレ。
罪悪感だけ綺麗に忘れてしまおうとした、反吐が出そうなほどに、自己中な自分。
END
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