真っ直ぐ全速力



「そそそ某は用があったでござる!!失礼致す」

「ちょ、旦那…」


な、なんで!?
オレ、もしかしなくても真田幸村にまで嫌われている?
だって、信玄様は桜の帰還を涙ながらに喜んでくれたのに、この人は出迎えに来てくれる訳でもなく、お帰りの言葉をかけてくれる訳でもない。

あからさまな拒否反応に、胸が鈍く痛んだ。
逃げるように背を向けて歩き出す赤い人を見つめて、オレは唇を噛み締めた。


(何だよその態度…話ぐらい聞いていけよ…!)


桜が貴方達に何をしたかは知らないけどさ。
身分や立場があったとしても、姫様にその態度は失礼すぎると思う。
嫌われていることを自ら望む人間なんて、いるはずがない。
想いを伝えるのが苦手だったとか、口下手だったとか、可能性はいくらでもあるだろう。

何で、何で誰も助けてくれなかったんだ。
桜は泣いていたんだぞ。
あんなに、辛そうに。


「ちょっと待っ…、うわっ…!」


怒りに任せ、オレは桜に背を向けた彼を追いかけようと駆け出したのだけど、着物だってことを配慮しなかったせいか、顔から派手に地面に衝突してしまった。


「姫様!?」


何が起きたか分からない。
着物は動きにくいなとは思っていたけど、足がもつれてしまったようだ。
鼻に妙な違和感があって、まさか、と思い手を当ててみたら、予感した通り…赤い液体がそれはもうベットリとついていた。


「桜殿、は…鼻血が…」

「え?これぐらい大丈夫で…」

「医師を呼べぇえぇ!桜殿が怪我をなされた!」


えええ!!
鼻血ぐらいじゃ怪我とは言わないって!


「幸村様、平気ですから落ち着いてください!」

「そそ某は…桜殿に何ということを…!申し訳ござらん!!」

「や、やめてください土下座なんて!」


さっきと態度が違いすぎる。
必死に頭を下げて謝って、幸村様は今にも泣き出しそうだ。

こんなときに悪いけど、犬みたいだな、幸村様。
稽古中はサムライらしく勇ましい感じだったけど、こうして見ると…可愛い。
もしかしたら年齢も近いのかもしれない。
そう考えてみたら一気に親近感が沸いた。


「あーあーもう、女の子が顔に傷残すようなことをしちゃいけません!」

「ご、ごめんなさい…」


たらりと流れた鼻血で着物が汚れる前に、佐助さんが白い布をオレの鼻に押し当ててくれた。
何だか凄く迷惑をかけてしまってる…、だけど幸村様を無視して落ち込んでいる暇は無い。


「あ、あの…顔をあげてください、幸村様」

「……桜殿。聞いてくだされ。某は…ただならぬ勘違いをしておりました」


ん、何ですか?と首を傾げてみる。
心なしか幸村様、顔色が悪いような気がする。
顔面蒼白手前になるまで、桜が恐いの?
貴方は強い人に見えるけど、どうしてこんな小娘を恐れる必要がある?


 

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