出過ぎた感情



最近の俺様はどうかしていたんだ。
桜ちゃんに口付けた独眼竜の旦那や、知らない所で距離を近付ける風魔。
一つも疚しいことを考えていないであろう真田の旦那にまで、俺様は醜く嫉妬した。

人の感情はとっくの昔に捨てたはずだ。
俺様は生粋の、忍びなのに。
桜ちゃんのことは、嫌いじゃない。
ただ、桜ちゃんだけには絶対に嫌われたくないと思う。
あの娘には、いつまでも心からの、素直な感情をぶつけてほしいと思ってしまう。


(桜姫様、貴女はこんな俺様を見て、どう思うかな)


情けない、って叱咤する?
それとも桜ちゃんみたいに、困ったように笑って許してくれる?

このままじゃ、俺様が俺様ではなくなる。
俺様は、忍びでなければ評価されない。
此処に居る価値が失われるどころか、生きる意味さえ無くなってしまう。

忍びが心を持つ事は、危険だ。
でも、きっと俺様は、手遅れなんだろう。
かすがに偉そうなことを言っておきながら、心を捨て切れていなかった。
桜ちゃんに馴れ馴れしく触れる男が、殺したいほど憎い。


(俺様はもう、戻れない…)


この罪は決して許されることがない。
だから、想いを告げたりはしない。
桜ちゃんにも、姫様にも知られちゃいけないんだ。


(どうか、目を覚まさないで)


桜ちゃんの半開きの唇を指で撫でる。
熱に苦しむ彼女の真っ赤な唇は、濡れていて艶めかしい。

このまま桜姫様として生きると言うのなら、貴女はいつしか他の男の物となる。
その相手が俺様でないことだけは確かだ。
だったら今だけ、俺様の物になって。
明日になれば、今までと変わらずに接するよう努力するから。


「……、ん…っ」


…今の俺様には分かる。
やっと分かるようになった。
姫様がどうして、そんなに暗い眼差しで、遠い夜空を見つめていたのか…、漸く、分かった気がした。



END

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