出過ぎた感情



「かすがが言うならそうなんだろうけど…でもなー」

「何故貴様は桜を信じようとしない?良かれと思い、一歩引いて接しているのだろうが、それは大きな間違いだ。貴様の行いが桜を傷付けているのだと、どうして分からないんだ!」

「感情的になるなよ。俺様達は忍びだろ?人を信じてはいけない。何が命取りになるか…」


…だから、かすがは忍びに向いてないんだ。
今にも泣きそうな顔をしちゃってさ、みすみす弱点を敵に教えているようなものだ。

かすがも、姫様も。
他人と触れ合うことを苦手としている二人がこうして想いを通じ合わせるなんて、俺様には少しも信じられないんだ。


「忍びも…人の心を持っているんだ」

「それ、桜ちゃんが言ったの?」

「貴様は…桜を見ようともしない。私は桜が好きだ。だが、桜を悲しませる貴様は…嫌いだっ!」


俺様が桜ちゃんを悲しませている?
いや、姫様を…か。
そんなつもりは、ないんだけどな…

俺様ばかりが悪いように言うなよ。
姫様だって俺様を嫌っていたじゃないか。
必要以上に関わりを持たなかった俺様が、どうやって姫様を悲しませるって言うの。


(哀れむような目を、向けるんだ…)


かすがと喧嘩別れをして、昇華しきれないモヤモヤした気持ちを抱えたまま、宴は始まる。
忙しなく働くのは女中達。
大将はいつにも増してご機嫌で、被害者になっているのは旦那と桜ちゃん…、

桜ちゃんの様子がおかしいことは気になっていたけど、宴の場に忍びが立ち入ることは出来ない。
こういう時、身分の差を思い知らされる。
かすがと言い合ったせいか、今日の俺様は冷静ではなかった。


(所詮は忍びなんだ。影に生きる者。闇に、溶けるだけ…)



ひんやりとした、薄暗い廊下にうずくまっている桜ちゃんは、呼吸が荒く、肩も小刻みに震えていた。

俺様は柄にもなく焦り、手を伸ばした。
どうして、もっと早くに気付いてあげられなかったんだ。
宴に出席させないで、部屋で休ませていれば、ここまで彼女を苦しませることはなかったのに。


『こっ、来ないで!』


頭に石を投げつけられたかのような衝撃を受けた。
たった一言で、俺様は世界の終わりを見た気分になった。

それは、拒絶。
桜ちゃんが、俺様を拒み、否定した。
自然と、回想してしまう。
…桜姫様が俺様の手を払う。
忍びは汚れているから触れるなと、心の無い瞳で、俺様を蔑む。


(俺様は貴女に…嫌われたくなかったんだ)


己の知られざる感情を悟った、束の間。
俺様は自ら、桜ちゃんに嫌われるようなことをしてしまったんだ。


 

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