出過ぎた感情



素直で純粋な桜ちゃんは、残酷にも俺様の心を掻き乱す。
久しく感じていなかった、人間らしさを思い出させてくれたのは他でもない、桜ちゃんだというのに。

狂おしいほどの愛しさと、凍り付く手前の恐怖。
それは、姫様に与えられた罰なのか。


「お帰りかすが。それで、どうだった?桜ちゃんの胸の大きさは」

「貴様、死にたいのか」

「冗談!本気にするなって」


直ちに両手を上げて降参する。
かすがは眉間に皺を寄せ、へらへらと笑う俺様を睨み付けた。
苦無を投げられても避ける自信はあるけど、壁に穴を開けられでもしたら大変だ、俺様の給料から引かれちゃうんだから。


「…疑う余地は無い。あの娘は間違いなく本物の桜姫だ」

「へえ…」

「何だその態度は!」


かすがの答えは、確信に満ちている。
以前、かすがが姫様と二人きりで会話をしていた時、盗み聞きしようとしたら、かすがに殺されかけたことがあった。
いつから二人が仲良くなったのか、何を話していたのかは分からないけど、かすがが姫様に好意を寄せている事は明らかなことだった。


「桜の背に、痣があった。私がこの、苦無で付けた傷痕だ…」


消したい過去を悔やむように、かすがは手にした苦無を見つめた。
これは、俺様と彼女達しか知らない事実。
どうやら姫様の背には、かすがが付けた傷痕が残っているらしい。

忍び風情が他国の姫に傷を付け、増してやそれが消えない傷痕となってしまうような重傷を負わせたことが知れたら、普通、打ち首では済まないだろう。
かすがが今も生を許され、変わらずに忍びを続けていられるのは、姫様が固く口を閉ざし誰にも他言しなかったからだ。
俺様も、かすがに打ち明けられるまで気付きもしなかった。


(ま、俺様には背中の傷なんて確認しようがないしね。姫様の肌を直接見る事は恐れ多いし…)


桜姫様は忍びの存在もすぐ気が付いてしまうぐらい敏感な御方だ。
天井裏から覗き見するのも楽じゃない。
盗み聞きなんて、以ての外だ。

 

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