酒と口づけ



「起きてる?桜ちゃん」

「さ、佐助さん…!ごめんなさい…」

「謝らないでよ。俺様が勝手にしたんだし」


起き上がろうとするオレを制し、部屋に入ってきた佐助さんは畳に腰をおろした。
湯殿に行ったのか、佐助さんの髪はまだ濡れていて、いつもの忍び装束じゃなく薄い着流しを身につけていた。

改めて思うけど、この人は本当にカッコいいんだな。
ラフな姿が珍しくて、観察しているつもりはないんだけど、佐助さんから目が離せなくなった。
どくんと脈打つ鼓動の音がやけに響いて、素手で心臓を握られたような、嫌な圧迫感が込み上げる。


「早くに気付いてあげられなくてごめんね。普通に考えれば、昨日散々体を冷やしたんだから…体調を崩すのは当前だ」

「佐助さんが謝ることはありません。あんな汚いもので汚したりして…ごめんなさい…」

「桜ちゃん、俺様なんにも気にしてないから。それにね、汚くなんかないよ」


そんな、フォローされても嬉しくないよ。
今日はほとんど何も口にしていなかったから、実際、吐いたのは胃液だけだ。
それでも体の中にあったものだから、綺麗とは言えない。

こうは言うけど、実際に桜のが汚いって言っている訳じゃないからな。
今はオレの体ってことになっているから、気分的にさ…
オレは桜にならひっかけられても別に、気にしないし!

もしかしたら佐助さんも…、オレと同じ考えなのかも、しれないな。
桜なら、汚いとは思わない。
上手く説明出来ないけど、きっと佐助さんも、許してくれたんだ。


「でも…やっぱり…」

「気にしないでって言っても気にしちゃうんだね。じゃあ…これで納得、できる?」

「……え…?」


影が差した。
オレンジ色の綺麗な髪も、暗い部屋ではよく見えない。
佐助さんの顔が間近に、鼻が触れるぐらい近くにある。
そして重なった、熱。


(…っ…ダメだ!)


思わず、突き飛ばしてしまった。
突飛な行動、佐助さんも予想しなかったのか少し体勢を崩したけど、尻餅をついたりはしなかった。

だって、有り得ない!
ほんの一瞬、唇に重なったこれは、…佐助さんの唇、だ。
驚きと衝撃で、突き飛ばしたままの体勢で硬直していたオレは、数秒遅れて、かああっと頬が熱くなった。


 

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