酒と口づけ
「ちょっ、桜ちゃん!?」
佐助さんだ。
くそっ、こんなときに…!
宴の場では姿を見なかったから、かすがさんと会っているのかと思っていた。
抜け出した桜を心配して、様子を見に来てくれたんだろうけど、返事をすることが出来なかった。
シカトするつもりはこれっぽっちもないんですよ!
口を開くのも億劫で…、というか、不運なことに、胃袋の中身が上の方まで戻ってきている。
人前で吐く訳にはいかない。
ましては佐助さんの、桜の好きだった人の前で醜態を晒すなんて…!
「どうしたの!?桜ちゃ…」
「こっ、来ないで!」
「え……」
「うく…、無理…もっダメ…!」
佐助さんの手が肩に触れた途端、オレの必死の努力は無駄になってしまった。
今回ばかりは、さすがの桜も許してくれないだろうな…。
苦しさと恥ずかしさで涙が出た。
思わず手で口を押さえたけど、オレの異変に気付いたらしい佐助さんが桜の体を抱き寄せたから、さらにヒヤッとする。
佐助さん、何考えてんの!?
今そんなことされたらやばいんだってば!!
「吐いちゃっていいから。我慢しないで」
「…っ…!」
ああ、最悪だ。
マジで何やってんだろう…オレ…
─────
オレは布団にくるまってうなだれていた。
熱も急激に上昇し、息苦しさも尋常ではなく、これじゃあ眠れそうにない。
先程のことを思い出すだけで、また涙が出そうになる。
恥ずかしすぎる。
それに、申し訳なくて。
佐助さんを…、汚してしまった。
爆発寸前だったのに、抱き締めて離してくれなかったから…!
これなら床に吐いていた方がマシだった。
ごめん桜。
ごめんなさい。
何回も謝るよ、土下座でもなんでもする。
マジに怒り狂ってもおかしくない事態だ。
好きな人に見せたくないシーンのベストテンに入るだろ、しかも酒に酔って嘔吐するって…
佐助さんの記憶から抹消したい!!
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