異なる選択
「かすがさんの好きな人って、佐助さ…」
「何故そうなる!私には謙信様以外有り得ない!はあ、謙信様ぁ…」
適当に言ってみたんだけど、完全否定。
かすがさんは佐助さんが嫌いなのか?
頬を赤く染めたかすがさんは、うっとりと謙信様の名前を呼んでいた。
え…、謙信様?
彼女の表情はまさに、恋する乙女のもので…
「そうだ。私は謙信様をお慕いしている。本来なら、他の女に謙信様のお名前を呼ばせたくもないのだが、桜はかまわないぞ」
謙信様って…やっぱり男?
女性であってほしいと思っていたけど、オレの希望はあっさり打ち砕かれた。
ま…、どっちでもいいか。
謙信様は人間的にとても素敵だから、性別はそれほど重要では無い。
そっかぁ…かすがさんは、謙信様のことが好きなんだ。
二人とも綺麗だし、隣同士並んだら見栄えするだろうな。
「桜は、自分が誰を想っていたか…それも覚えていないのか?」
「うー…覚えてないです。教えてくれますか?」
「…ならば言わない方が良いかもしれないな。桜が何故あんな奴に心奪われたか、私には未だに理解出来ない」
あんな奴って誰だよ!
ここまで来て教えてもらえなかったらオレ、気にしすぎて眠れなくなっちゃう。
かすがさんの口を割らせて、無理に聞き出すのは卑怯かもしれないけど、教えてほしい。
知っていた方が、オレも何かと考えて行動できるしさ。
いや…本当は…、オレが気になるだけだ。
そして、かすがさんの口にする答えを予期して、期待している。
そうであってほしいと、心のどこかでずっと、願っていたんだ。
「佐助だ」
「……、本当…に?」
「ああ。桜は、佐助のことが好きだった」
予想通り…て言ったら怒られるかな。
だから、あんまり驚かない。
冷静に受け止めたオレがいた。
何でだろうな。
オレもよく佐助さんにドキドキしていたけど、それが桜の影響だったと考えれば、間違いない。
これで、佐助さんが桜を好きだったとしたら…、両想いじゃないか!
…でも、そんな簡単な話では無いことぐらい、オレにも分かる。
「私達は共に叶わぬ恋をしている。ゆえに…二人きりで会っては弱音を吐き、傷を慰め合っていた」
「忍び…だから…?」
「……、」
桜は立場も身分も他の人とは違うんだって、だから自由な恋が出来ないんだって、自分自身に言い聞かせていたはずなんだ。
それなのに、好きになった人が、忍び。
オレがこっちに来る前に、桜は佐助さんに恋をして、だけど、諦めた。
わざと、冷たい人間って思われるような態度を取り続けた。
辛い想いをして自分を傷付けてまで、どうして、嫌われようとしていたんだ?
桜の本心までは分からないけど、でも、本当は…嫌われたくなかったんだよな?
オレは、桜が優しい子なんだって、知っているよ。
人を憎むことが出来なかったから世界を憎んで、残酷な世界からいなくなってしまおうとした。
かすがさんも…似ているね。
忍びと、謙信様とでは、比べるまでもなく身分が違いすぎる。
いくら好きになっても、想いが誰にも負けなくたって、この時代じゃ…そんな無謀な恋が実る確率は限りなくゼロに近い。
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