異なる選択
「すまないな…」
「あはは…はは。かすがさんのせいじゃないです。私、実は昨日から体調悪かったんですよ」
「なに!?それを先に言え!知っていたら連れ出さなかったぞ!」
発言する暇も与えてくれなかったじゃないですか。
せっかく謙信様が会いにきてくださったのに、具合が悪いなんて言えるはずがないし、誰にも言わなかったんだけど。
昨日、雪山に薄着で転がったせいか、今朝はかなり目覚めが悪かったんだ。
頭は痛いし、気持ちが悪い。
熱が無かったのは幸いだった。
見た目に症状が出ていたら、部屋から出してもらえなかっただろう。
「謙信様と、かすがさんが、私に会いに来てくださったから、嬉しかったんです。だから、お喋りしましょうよ」
「……、桜。お前は変わったな。笑った顔など見たこともない。忘れられたのは悲しいが…桜の笑顔が見られるならば、私は嬉しい」
…いきなり脱がしてくるような人だからびっくりしたけど、かすがさんは、桜を大切に思っていてくれたんだ。
かすがさんは謙信様に仕える忍び…、くのいちらしいけど、桜は忍びと友達になれるはずないだろう、って言っていた。
じゃあ、何だ、こんなに優しく微笑みかけてくれる人が、他人だって?
違うだろ?難しいことは抜きにして、単純に考えてみろよ、桜とかすがさんは、ちゃんとした友達なんだよ。
「かすがさんって、佐助さんとは仲が宜しいんですか?」
「ふっ、私とお前の関係より、佐助との関係が気になるか?」
「いや、そういうわけじゃ…」
「案ずるな。佐助とは同郷の顔馴染みだ。生憎、それ以上の感情は持ち合わせていない」
尋ねる順番がまずかったためか、妙なところをつっこまれてしまった。
二人は、幼なじみみたいなものらしい。
さっき、ちょっとだけだけど、オレが見た限りでは、佐助さんはかすがさんに気を許しているように感じた。
(頭が痛くって、あんまり記憶していられなかったんだけどな…)
オレは、二人の関係を知らない。
事実、かすがさんとオレは初対面なんだから仕方がないだろう。
桜は…知っていても、入り込めなかったのかもしれないな。
「私と桜は、簡単に言ってしまえば…その、互いの恋について語り合う仲間、のようなものだった」
「互いの、恋…!?」
好きな男について話したり、相談したり、それは現代の女の子と大差が無い。
友達なら、珍しくも何でもないことだ。
ただ、驚いたのは、桜にも、恋を語るほど仲の良い友達がいたってこと。
と言うか、かすがさんは、桜の好きな人を知っている?
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