真っ直ぐ全速力
桜姫は不良少女だったのかも、と一瞬でも思ったオレがバカだった。
かも、じゃない。
桜は今までどうやって"プリンセス"をやってきたんだ!!
「此処が、姫様の部屋ね」
「……ハイ」
佐助さんに案内され、桜が使っていた部屋まで連れてきてもらったんだけど、廊下ですれ違う女中さんや雇われている人達や怖い顔の侍達が、皆オレを見ると青ざめた表情をするんだ。
そして、会釈をしてから逃げるようにして立ち去る。
(……何で?嫌われている、というより…ビビられてないか?)
そんなこんなで、桜姫イコール不良?の方程式が成り立ってしまった。
「これに着替えてね。汚れた着物は置いておいてくれればいいから」
「あ、あの、佐助さん」
手渡された着物は当然女物だ。
森の中にいたオレは土で汚れていて、さすがに姫様がこんな格好でいるのはいただけないのだろう。
金の糸で刺繍が施された、全体的に鮮やかな朱色はちょっと目立つかな、と思うけど、若い女の子にはよく似合いそうだ。
「着物の着方を教えていただけませんか?」
「……、」
佐助さんはぴたりと硬直し、黙ってオレを見下ろしている。
何でしょう、この微妙な空気は。
普通に生きていたら、こうした本格的な着物なんて着る機会は滅多に無い。
「俺様に言うのは間違いでしょ?女中を呼んできてあげるから、待ってて」
「あ……」
…オレ、今は女だった。
大事なことなのに、気を抜くと忘れてしまいそうになる。
佐助さん、はぁ?って顔していたし、返答に困っていたんだろうな。
「あっ、佐助さん!」
「…あのさ、別に呼び捨てでいいんだよ?」
「いえ…年上の人を呼び捨てには出来ませんよ。それより、着替えが終わったらお屋敷を案内してくれませんか?」
年齢を聞いてはいないけど、間違いなく年上だろう。
十代後半か二十代前半ぐらいだろうか。
佐助さんは、見れば見るほど美形だ。
こんなに整った顔立ちの人、そうは見かけない。
綺麗なオレンジ色の髪は人の目を引く。
この人なら、例え人混みではぐれたって、すぐに見つけることができるはずだ。
「構わないけど…、良いの?俺様で」
「はい、佐助さんがいいんです」
…だ、だってさ、
オレあんまりお城の人に歓迎されてないみたいだし、それなら少しでもオレを心配してくれているであろう佐助さんに頼りたい。
「あと、柔らかい布か何か頂けたら嬉しいです、なーんて……」
勿論、チャーリー君用だ。
長い間むき出しのまま持ち歩いて汚れちゃってたから、早く磨いて綺麗にしてやりたいんだ。
「……っ」
「え?」
佐助さんは何故か口元を押さえ、オレの言葉に返事をすることはなく、足音も立てないでその場からドロンと消えてしまった。
その動作は凄まじく本物の忍者で、オレは口を開けて見入っていた。
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