姫様の夢 その7
「以前お前が、私の体に取り込まれた場所を覚えているか?」
「あの…森?」
「そうだ。私は何度か其処に訪れていてな、…偶然居合わせた小太郎とたった一度、顔を合わせただけだ」
ただの顔見知り、本当にその程度の関係?
そんなの嘘だろ、小太郎さんは、桜に会えて嬉しそうだったよ。
佐助さんはいまいち本心が読めないけれど、小太郎さんは桜が好きなんだなって、ちょっと接しただけでも分かったんだ。
「これは私の予想だが、きっと北条は近々、隣国に戦を仕掛けるのだろう。小太郎は別れの挨拶に来たのかもしれぬ」
「それって…、死んじゃうかも、しれないから?」
「戦が始まればただでは済まない。いくら小太郎が、修練な忍であってもな」
出来ることなら、戦ってほしくない。
桜も本当はそう思っている。
戦地へ赴く小太郎さんの身を案じて、つらそうな顔をしている。
でも、争い事は止めてくれ、と口出しすることも出来ないんだ。
女の子は武器を持って戦えないし、桜はお姫様だし。
城の中でじっと黙って、時の流れを見つめることしか、出来ない。
「結局、小太郎さんは、桜に何を伝えたかったのかな」
「さあな。だが……、いや、憶測で物を言うのは止めておく」
桜には、思い当たることがある?
小太郎さんの気持ちを知っている?
人と触れ合うことが苦手で、一歩引いて生きてきた桜だけど、別れを人一倍怖がっているような気がするんだ。
そして、予感している。
小太郎さんとの別れがすぐ近くまで迫ってきていることを予感し、怯えながらも覚悟しているんだ。
「いつの時代も、戦争ってのは虚しいものだよな。信玄様と謙信様が争っていなくてよかったー」
「ああ、謙信様がいらっしゃるのだった…。お前は謙信様に、必要以上に近付いてはならぬぞ。面倒なことになる」
「な、なんで?ちょっと楽しみにしてたんだけど…」
上杉謙信公。
桜を子供の頃から知っている人。
信玄様も、謙信様の話をするとき、とても優しい表情をしていた
以前、敵同士だったとは思えないぐらいに。
だから勝手に、穏やかで紳士的な感じのオジサマを想像していたんだけど。
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