姫様の夢 その7
桜はカチャカチャとチャーリー君のピストンを押し、音階の指番号を繰り返し練習していた。
どこかにオイル売っていないかな、…考えるまでもなく、売っているはずがないけど。
ろくに手入れも出来ないから、ピストンの動きもぎこちなくなってきたよ…
「あれほどの衝撃を受けながら擦り傷程度で済むとは…、チャーリーに至っては無傷だ」
「本当にごめん!としか言えないんだけど…オレ、桜姫を日に日に謎な人物にしてる気がするわ…」
「…お前は私に会う度、謝ってばかりだ」
呆れたように言われ、返す言葉も無い。
あの後、屋敷に帰ってから、佐助さんに傷の手当をしてもらった。
桜の足や腕に細かい擦り傷が出来て、それを見た佐助さんは、痕はすぐ消えるよって笑いながら言っていたけど…
包帯を巻かれている最中、佐助さんに触れられた箇所が熱くなってどうしようかと思った。
変なことを言うからだ…、触っていいのは俺様だけにしろ、とか、何なんだよ!
嫌でも視線を意識してしまう。
そのうち、佐助さんが桜を見る瞳が、凄く優しいことに気が付いた。
(佐助さんは、桜のことが好きだったのかもしれないな)
必然的に、身分や立場を気にしていたはずだから、それがどの程度の好きかは分からないけど。
仲が悪いと見せかけて実は…ってことか?
会話しているところをあまり見たことがない、って雪ちゃんも言ってたじゃん。
仮に佐助さんが桜に恋をしていて、記憶を無くした桜にも、変わらない心で接しているのだとしたら…オレは、これからどう行動していけばいいんだ?
大切なのは、桜の気持ちだ。
オレ…は、どうしたいんだろう。
薬草の匂いがきついせいか、頭がくらくらしてきて、考えるのが億劫になった。
「小太郎さん、不思議な人だったね。あの人って桜の友達?」
「…いや。小太郎は北条に雇われた忍びだ。私と友になれるはずが無かろう?」
「でも、助けてくれたじゃないか!花を…贈ってくれたし…」
桜はオレが転落しているとき、小太郎さんが近くに居るって気付いていた。
つまり、花をくれた人の正体も、桜はずっと知っていたんだ。
小太郎さんは道場の中にいた桜を外に誘って、二人で会うつもりだったのかな。
本来なら敵対する相手だから、出来るだけ屋敷から離れた山の中に入りたかったのかもしれない。
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