言葉なき歌声
「佐助さん、まさか…やきもち…ですか?」
「いやぁ…そんなに可愛らしいものじゃないけどね」
佐助さんは目を泳がせて、誤魔化そうとしているようにも見える。
姫様だからじゃなくって、桜だから?
忍びとしての仕事は関係なく、個人の感情で嫉妬してくれた?
…あ、あれ?結局どういうことなんだ!?
桜と佐助さん、二人は仲が悪かったんじゃなかったっけ?
「ところで、風魔さ、口が利けないはずなんだけど…名乗ったの?」
「え!?あ、それはその…」
「ま、風魔なんかどうでもいいけど。桜ちゃん、怒ってごめんね」
仲直りしよう、と再び差し出された手を取る。
返答に困るツッコミに焦り(桜が呼んだから知ってるんだ、なんて言えるはずがない)、オレの頭の中は相変わらずぐるぐるしていたけど。
屋敷に戻るため、支えられて宙に浮かび上がったことをぼうっとする頭で認識しながら、佐助さんを見る。
自分でも気付かないうちに、ただ見ていたつもりが、凝視、に変わったらしい。
熱烈な視線を浴びせられた佐助さんは、少し照れくさそうにそっぽを向いた。
「さっきの…嘘じゃないから」
「う…、えっと…」
「ごめん、悩ませちゃったね。深く考えることはないよ。俺様が桜ちゃんに伝えたいのは、たぶん、それぐらい…だし、多分」
そんなふうに、曖昧な感じに言われるともやもやする(多分って二回言ったぞ)。
佐助さんは申し訳なさそうに笑うと、桜の体を強く抱き寄せた。
そ、そんなにくっつかなくても…!!
(ドキドキしてるのバレるだろ!カッコ悪いじゃないか…!)
挙動不審になっても仕方がない。
今日の佐助さんがおかしいせいだって!
頭の中はぐちゃぐちゃで、難しいことは何一つ考えられないけど。
…こうして抱き締められるのは意外にも嫌じゃなくって、むしろ安心できるんだ。
オレはやっぱり、佐助さんが一番良いよ。
必死に名前を呼んだ、オレの声はちゃんと佐助さんに届いていたんだ。
迎えに来てくれて、ありがとう…。
END
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