言葉なき歌声



「えっ?」

「……、」


急に手を重ねられて、びっくりしてしまう。
骨ばった手は、桜の手よりもずっと大きくて厚かった。

小太郎さんは口をぱくぱく動かし、その薄い唇に、オレの指を押し当てた。
す…凄く恥ずかしいことしてません?
指先から唇の感触と温度が伝わってくる。

いつになっても紡がれない言葉。
閉ざされたままの唇。


「…喋れない…?」

「……、」

「そう…でしたか…」


声が…出せないんだ。
大きなショックを受けて声を無くしたのか、それとも病に冒されたのか。

もしオレが声を失っていたら、と想像してみる。
毎日の生活に支障が出るし、想いが伝わらないことがもどかしくて…辛いはずだ。
政宗様も片目を失ったことで苦しみ続けていたけど、小太郎さんも、本当は泣きたいぐらい…、

小太郎さんはどんな声をしているのだろうか、どんなふうに笑うのだろうか。
貴方の声を聞いてみたかったな。
それを告げるのは残酷だから、言わないけれど。


「これ、トランペット…ラッパなんですけど、チャーリー君って呼んでください!」

「……?」

「私、口下手なので…直接言いたいことが言えないとき、チャーリー君はその音色で、私の想いを代弁してくれるんですよ。だから…」


想いを伝える手段は、言葉が全てじゃないんだよ。
チャーリー君が表現出来るのは楽しい、悲しい、とかそれぐらいだけど、心に響くものは必ずある。
小太郎さんだって、口を閉ざして黙っていても、想いを伝えることが出来るはずだ。
桜と通じ合えたのだとしたら、それだけでも凄いことじゃないか!

…言いたいことは沢山あるんだけど、上手くまとめられない。
深く考えていけばいくほど、気持ちを言葉で表現するってのは、何よりも難しいことだと思った。


「小太郎さん?」

「……、」

「へへっ…くすぐったいですよ」


柔らかな髪を撫でて、頬に流れる雫を指先で拭って。
こそばゆくて笑ってしまう。

遠慮がちだけどこうやって触れてくるのは、桜が小太郎さんに気を許していたからだろう。
もし冷たく当たっていたなら、小太郎さんは、こんなふうに優しく接してくれなかったはずだ。

小太郎さんも口端をちょっとだけ釣り上げて微笑んでいた。
笑顔を見ると、嬉しくなる。
…別に、顔を隠さなくてもいいのにな、何だか勿体ない。


 

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