緩やかな流れ



雪がちらつく白い空。
いつまでも変わらずに冷たい雪を降らせ続ける空を見上げながら歩いていたら、首が疲れた。
地に積もる雪は水気を含んでいるようで、踏み締める感触はふわふわ…ってよりはぐしゃぐしゃって感じ。

オレはチャーリー君を風呂敷に包んで、屋敷の近くの山にある道場へ向かっていた。
謙信様が訪れると言うなら、明日は練習をする時間も無いだろうし、あんまり練習をサボってると技術が衰えてしまう。

今までは、毎日かかさず練習をし、チャーリー君に触れていたのに!
長年習慣になっていたことでも、環境が変化すれば思うように続けられなくなる。

こんなんじゃチャーリー君に嫌われる!
楽器との相性も大事なんだ。
オレの気持ちが不安定なら、チャーリー君の音程も狂っていく。

しかも冬だしな。
寒いと音程が下がりやすいから、チューニングにも時間かかる。
いっぱい息を吹き込んであたためないと。

寒さに身震いし、小走りで道場に到着したオレは、いつ見ても体育館並に広い道場の中心に立った。
人が入らないせいか、室内の空気が異常に冷えていて、このままでは風邪を引きそうだ。
早めに引き上げないとな…

部活で行っていた基礎練習を一通り終え、大会で演奏する予定の曲を練習する。
冬のコンクールは…金管八重奏のアンサンブル。

一人で練習するのって、結構虚しいんだよな。
個人練習も大事だけどさ、ずっと一人では流石に寂しい。
アンサンブルはチームワークが重要だ。
ソロのコンテストに出場する訳じゃないから、ひとりよがりに吹いていると浮いてしまうんだ。

ふと、リーダー格だったセカンドトランペットの女子の顔を思い出した。
名前は、はるひさん。
名前だけじゃなくて、顔も可愛いと思う。
でも性格が、一言で言えば姐御といった雰囲気で…いろいろと惜しいよな。
彼女は凄くトランペットが上手だったし、オレよりも積極的で、皆を纏める力もあった。
何より、はるひさんはチャーリー君に名前を付けてくれた人なんだ。

全てが、懐かしいと思ってしまう。
まだこっちに来て十日も過ぎてないのに。


「どうしてるかな…皆は…」


一人になると、現代のことを思い出して、どうしようもなくテンションが下がっていく。
チャーリー君を吹いていて至福の時間のはずなのに、今は素直に楽しめない。

誰も、いないから。
オレの音を聴いてくれる家族も、一緒に練習する仲間も友達も。


 

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