緩やかな流れ



「甲斐と越後は数年前に同盟を結び、互いに情報を交換しあっておる。桜よ、お主は赤子の時より謙信と顔を合わせておったのだぞ」

「そんなに昔から…」

「謙信は桜を身を案じているはずじゃ。明日、元気な顔を見せてやってくれるか?」

「は…はい!」


謙信様は、桜と付き合いが長いんだ。
赤ちゃんの頃からの知り合いだなんて。
オレよりも、桜のことを深く理解しているのかもしれないな。

信玄様とは戦うライバル同士、ではなくなっていた。
同盟国のお殿様。
いったい、どんな人なのかな。
塩不足で困っていた信玄様を助けてくれた人らしいから、優しい人なんだろうな。

もし、謙信様が桜を可愛がってくれていたなら、桜が記憶を無くしたと知り、ショックを受けたはずだ。
…明日、オレは初めて謙信様と顔を合わせることになる。
初対面なのはオレだけ。
記憶が無くったって、謙信様はオレのことを本物の桜姫だと信じて、会いに来てくださるんだ。
きっと、悲しくなるだろう。
記憶を失った桜を可哀想だと嘆いて、記憶を早く取り戻してほしいと願うんだろう。

そんなの、当たり前だ。
嘘をついているのはオレなんだから…


「…桜よ。誰が何と言おうとも、天地が逆さになろうとも、お主は間違いなく儂の娘だ。不安に思う必要など微塵も無い」

「信玄様…?」

「その通りでござるよ、記憶を無くされたとは言え、桜殿は武田の姫君!胸を張って、軍神殿にぶつかってくだされ」


お二人は何を言っているのかと、少し考えてしまった。
ああ…励ましてくれているんだな。
記憶を失って心細い想いをしていた桜を、心配して、元気付けようとしてくれる。

そう気が付いたとき、嬉しくてたまらなくて、思わず泣いてしまいそうだった。


「信玄様…幸村様…、ありがとうございます」


オレはどれほど暗い顔をしていたんだ。
壊れ物のように大切に扱ってくれているのに、これ以上心配をかけたらダメだろう!

笑っていよう。
明日は謙信様の前でも、笑顔でいられると思うよ。
信玄様と幸村様に、勇気と自信を貰ったんだから。


 

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