真面目な冗談



「桜、記憶を無くしたとしてもお主はこの武田信玄の愛娘!なぁに、気に病む必要はない!」

「武田…信玄…様?」


武田信玄だって?
その名前は聞いたことがあった。
猿飛佐助と同じぐらいの有名人だ。
桜姫は、武田信玄の娘だったのか?

衝撃を受けて固まっていたオレの髪を撫で、信玄様は柔らかく微笑んだ。
先程とは打って変わり、慈しむような優しい手つきだ。


「桜よ、お主の身に何かあったら儂は生きてはおれぬ。二度と黙って屋敷を抜け出さないと約束してくれるか?」

「あ、はい」

「姫様が…素直だ」


二つ返事で頷くオレ、桜姫を見た佐助さんは唖然とし、感心しているようだった。
この年頃の不良娘の扱いは大変だろう。
お父さん、信玄様がこんなに心配しているのにさ、放浪癖って治らないのだろうか?
矢や槍が降ってきそうな、危ない外に出るより、屋敷の方が確実に安全だろうし、不便なことなんてないだろうに。


(でも……、)


オレは桜のことをよく知らないんだ。
知らないことが多すぎて頭の中が爆発しそうだった。

携帯電話の向こう側で、桜が何故すすり泣いていたのか、何を思っているのか。
訳も知らないくせに、見ず知らずの他人のオレがどうこう指摘するのは失礼だよな。


(なあ、桜…オレ、お前に会いたいんだけど)


とりあえず鏡が欲しいな、お前の顔を見てみたい。



END

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