闇に舞う雪



「旦那、訳を言おうね。それじゃあ全く分からないから」

「おぉ…、佐助か…」

「…本当にどうしちゃったの?」


さすがに、これはおかしいだろう。
俺様の知っている旦那じゃない。
常時、炎のように暑苦しい旦那が、燃え尽きて真っ白になっちゃってる。


「幸村よ、桜はどうした?」

「そう、旦那、桜ちゃん置いて一人で帰って来たの?何、独眼竜の旦那と喧嘩でもした?」

「桜殿…、くっ、某は桜殿に何という破廉恥なあぁああ!!」


…え、破廉恥って?
桜ちゃんに破廉恥って言った?
嘘だろ、まさかねえ!?


桜ちゃんの名前を出す度に現実から逃避しようとする旦那の口を割らせるのは、下手な任務より苦労した。
幼い頃からお世話させてもらっているけど、弁丸様…旦那が女子に免疫が無いのは、桜姫様のせいなんだよね。
姫様は子供なのに大人びていたし、旦那に対しても容赦なかったし。

そんな昔に植え付けられた苦手心が、元服を済ませた今、困ったことになっている。
日本一の兵が女の子に怯えてどうするの!
そんなんじゃお嫁さん貰っても尻に敷かれちゃうって。

今回は姫様ではなく、桜ちゃんが原因。
でも、話を聞く限りだと、旦那の不注意ってことになるんだけど…


「嫁入り前の姫君の部屋に押し入るなど、破廉恥な!某はいったいどうすれば…」

「未熟者めがぁ!そこで手を出さぬとは、それでも男か!」

「はっ!?大将、何を言って…」


そんなこと吹き込んでいい訳!?
旦那は馬鹿みたいに素直だから、大将の言うことなら何でも受け入れてしまいそうだ。


「未熟者…、その通りにございます。某、まだまだ修行が足りぬようです」

「分かれば良い。日々精進せよ」


旦那、絶対に意味を履き違えてる。
女の子に慣れる修行?
…って、旦那が遊郭に通う所はあまり想像したくない。

俺様過保護だからな、旦那には、武士として真っ当な人生を歩んでほしいんだよ。
それ相応の妻を娶って、子を成して、真田家を安泰に導いてもらわないと。


「儂はのう、いずれは桜を幸村の妻に、と思っておったのだ」

「なっ!?」

「桜殿が…某の…?」

「以前の桜であれば首を縦には振らぬだろうが、今の桜ならば…」


……無理!!
何が無理かってこの話、異性と手を繋ぐのだけで破廉恥扱いしちゃう純情な旦那には絶えられない話題でしょ!

大将は愛娘をどこぞの大名に娶らせるぐらいならば、信頼する真田の旦那にって思って言ったんだろうけど…、旦那、真っ赤になってプルプル震えているよ。
助け舟を出してあげなくちゃ、そのまま昇天してしまいそうだ。


「大将、お話の途中ですが、桜ちゃんを迎えに行ってきます。旦那も連れていきますね」

「うむ、奥州へ。幸村は政宗公に謝罪をしなければいかんのう」

「ほら旦那、行くよ!」


ああもう!
既に手遅れじゃないか!


 

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