真面目な冗談
(それにしても…此処は本当に戦国時代なのか…?)
こんな場所に連れてこられたら、受け入れるしかない。
オレが居るのは、侍が刀を振り回して戦って、血を流して…、人殺しが当たり前にある昔の時代。
空から見ていた地上の景色は、比べるまでもなく、現代とは違いすぎた。
車なんて走っているはずがなくて、まともな灯りも何も無くて少し不安になったけど、星空は今まで一番綺麗に見えた。
此処は、オレの知らない世界。
不安になると同時に、恐くもなった。
力も無い女の子になったオレが、どうやって生きていけば良いんだ?
オレは、元の時代には帰れないのだろうか。
「桜が帰ったのかぁ!!桜は何処におる!」
「大将。そっちじゃないですよ、こっちですって」
耳がじんじんと痛むぐらいの大声が響き渡った。
びっくりする暇も無く、桜姫の名前を叫んだその男は、目にも留まらぬ早さでオレの元へ突進してきた。
「おぉ桜!心配したのだぞ!」
「く…苦しいっ!」
太い腕に強く抱き締められ…と言うより締め付けられてしまい、またもや死を覚悟しそうになる。
じたばたともがいてみるけど、この体格の良い人には通用しそうな無かった。
「大将、実は……」
そこで、佐助さんが何も見えていないかのように平然と、真顔で話をし出す。
オレはほとんど涙目になっていたけど、乱れた呼吸を調えている間に、大まかな状況は伝えられたらしい。
「記憶が…無い、だと?」
「どうも…そのようで」
「なんと!嘆かわしい…」
哀れむような目とはまさしくこれだ。
周りのテンションもがくんと下がったようだ。
話題の中心にいるはずのオレは、気の利いた言葉のひとつも思い付かず、表情だけが強ばっていく。
素直に、申し訳ないと思う。
でも、どうしたらいいか分からない。
姫が記憶を失っている、とするなら(もうそういう方向で話は進んでいるようだ)。
下手に口を開いて余計なことを言うよりは、黙っていた方が都合が良いだろうか?
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