姫様の夢 その6
「大丈夫か?」
「…んぇ…?」
重たい瞼を開けば、心配そうにオレの顔を覗く桜がいた。
ああ、いつもの夢か…
夢のはずなのに、体は重度の筋肉痛みたいに、思うように動かせなかった。
「うぅ…だるい…」
「すまない。無理をさせたな…、辛いのならそのまま横になっていろ」
「ううん、平気。桜…さっき、何をしたの?オレにも分かるように簡潔に説明を…」
桜は顔をしかめたままだけど、普段のようにただ呆れているんじゃない。
…オレの自惚れではなくて、本当に心配してくれていたんだ。
「話したいのは山々なのだが…、お前の苦手とする単語が幾つも出てくるぞ。あの世の仕組みや御霊について、そして」
「やっぱ遠慮しとくわ」
わざわざ、そんなふうに前置きしてくれたってことは…まさか本当に政宗様のお父さんが桜の体に光臨していたのか。
桜は不思議な力で死者の魂を現世に呼び戻し、自らの体に憑依させた。
その反動でオレはぐったりしているのか…
もしかして桜は、見えるはずのないもの…幽霊が、見えたりする人?
桜が幽霊を引き寄せる体質だったりしたらオレ、げっそり痩せてしまうよ。
実は、オレには見えてないだけで、桜の周りには透明な元人間がうじゃうじゃと…、いや、それだけは勘弁してほしい!!
「案ずるな。この能力と直接と関わっている訳ではないのだが…、ただ、霊視が出来るのは、私が闇に身を置いていることに関係している」
「闇?何それ?」
「この世には、そういう人間も居るのだ。多くは語らぬ。お前が怯えてしまうからな」
なんだか情けない…男のくせに怖がっているだけなんて。
闇…ね、暗いとか後ろ向きだとかそういう性格のことじゃなくて、やっぱり体質的な問題なのかな。
幽霊が見える人って皆そうなのか?
闇に身を置く、それが具体的にどんなことなのかは分からないけど、正直なところ、必要な情報でなければ知りたいとは思わない。
「政宗様のお父さん、良い感じの人だったよね。言いたいこと言って帰っちゃったけどさ」
「あのお方は己の最期の話をされたな。独眼竜のお父上、輝宗様を死に追いやったのは、紛れもない息子自身であったというのに」
桜の言葉はオレを驚かせてばかりだ。
つまり政宗様が、お父さんを殺してしまったってこと?
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