悲しみの真相



「政宗様、お戻りになられたのですね」


城へ戻るなり、出迎えてくれた小十郎。
もし小十郎に、桜姫を泣かせたことを知られたら、また長ったらしい小言を聞かせられるのだろう。
いつきならば既に告げ口をしているかもしれない…、政宗は頭が重かった。


「ところで小十郎、princessといつきは…、What is this?」

「こちらは桜姫様が作られたものです。政宗様にも試食して頂こうかと、残しておきました」


本当はいつきも政宗様のために料理を作っていたのですが…と小十郎は申し訳なさそうに言う。
その声色から、いつきの料理は上手くいかなかったのだと政宗は察した。
あの健気な少女が自分のために作ってくれたのだとしたら、失敗作でも食べてやりたかった。


「卵焼きか…見た目は良いじゃねぇか」

「個性的な味で俺は美味いと思いましたよ。いつきは気に入らなかったようですが…」

「……、これは…crazyな…」


確かに、個性的な味だ。
これほどまで甘ったるい卵焼きは、一度だって食したことが無い。
不味いとは思わないが、小十郎が美味いと感想を述べたことが不思議に思えた。


「桜姫様は、俺が味を褒めたら、とても嬉しそうに笑っていました」

「あの…姫が…」

「二人は茶を飲んでいます。政宗様、どうか大人気ない言動は謹んで下され」


まだ、卵焼きの甘さが残っている。
柔らかくて優しい味だった。


甲斐の桜姫が記憶を失ったと聞いた時、政宗は一抹の不安を覚えた。
必死に均衡を保ち続けてきた関係が、崩れ始める前兆。

武田一の武将である真田幸村という男は、政宗の好敵手であり、友であるが…、政宗は幸村を以前から恋い慕っていた。

この気持ちを知る者は居ない。
従者の小十郎は気付いているようだが、政宗が直接他人に、胸の内に秘めた想いを語ったことはなかった。

しかし幸村は、多忙な政宗が時間を裂いて逢瀬の時間を作っていると言うのに、口を開けばお館様、佐助、桜殿。
特に姫の話は当たり前で、某は桜殿に嫌われているのです…、といつの間にか悩み相談になるのがお決まりだ。

アンタにはそれしかねぇのか!と政宗は何度も喉元まで出かけていたが、どうにか言葉を呑み込んでいた。
怒鳴り声をあげて、幸村を落ち込ませたくはない。
ゆえに政宗は、嫌いな女の話を好きな男の口から聞く羽目になっていたのだ。


(確か…姫にこの気持ちを暴露した時、珍しく驚いていたな)


幸村が好きなのだと、胸ぐらに掴みかかる勢いで告げれば、桜は目を伏せてしまった。
俯いた彼女は何と言ったのだろうか?
政宗はその時の言葉をよく覚えていない。


 

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