悲しみの真相
政宗は途方に暮れていた。
城下の中心で、しかも人通りが多い時間帯に、要らぬ注目を浴びてしまったのだ。
まさか国の主ともあろう男が、他国の姫を泣かせ、更にはまだ幼い子供に怒鳴られ…、
(真田は居なくなっちまうし…、今日は厄日か?)
ひやりとした冷たい風が頬を撫でる。
この分では、明日にでも雪が降るのではないか。
奥州の冬は長く、厳しい。
だがその自然を耐え生き抜いてこそ、強い人間は育つのだと、政宗はいつきを見る度に思うのだった。
子供に教えられることも多くある。
他の意見を聞き入れることも、国を治めていく上には必要なことだ。
何故、桜姫が泣いたのか、政宗には理解が出来なかった。
過去に数回、彼女と顔を合わせる機会があったが、常に気分が悪かった覚えがある。
桜姫は武田信玄の娘とは思えぬほど、何事にも無関心、たまに口を開けば感に障るような言葉ばかり。
それだけなら、ただの生意気な小娘だと思えたはずだ。
だが、政宗は桜の瞳が気に食わなかった。
恐ろしくもあった。
黒く大きな瞳は、美しい彼女を引き立てるが、闇のように感じられた。
光が灯らない、それは冷たいだけの氷。
笑うことを知らないかのように、彼女はいつも遠くを見ていた。
(俺を見るな。母上と同じ凍った瞳で)
腹を痛めて生んだはずの息子を蔑み、鬼女とまで呼ばれた母。
政宗が最後に見た愛しい母は、狂って心を無くした、ただの人形のようだった。
もう何年も、顔を合わせていない。
そのような、政宗にとっては恐怖の対象でもある、母を思わせる甲斐の姫君。
桜に恐れを知られてはならない。
ちょうど、自分の瞳は片方が隠れているため、易々と感情を露わにしない自信はあった。
どのような皮肉も冷静に受け流し、弱点を隠し通さなければいけない。
でなければ、自分の心が、先に死んでしまう気がしてならなかった。
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