龍の目に涙
「残念な報告だが、母上は今でも俺を忌み嫌っているぜ。俺が愛されていたことがあるとすれば、発病以前の餓鬼の頃。母上を鬼にしたのは俺だ…今更、笑顔を取り戻せるとは思えねぇ」
『誰しも、生きていれば間違いを侵す事もある。世の中何が起きるか己にも分からぬものだ。儂の最期を、お主は予期しておったのか?答えは否。ならば、どうしてお義の心を理解出来よう』
「……、」
実の母親に、一度殺されかけているのに、そんなの…理解出来る訳がないだろ、分かりたくもない。
それでもお父さんは、政宗様に大事なことを教えようとしている。
オレにとっては難題だけど、政宗様には伝わっているのかな。
(お父さんは、政宗様に…、お母さんと、仲直りをしてほしいの?大変だと思うよ?きっと途方もない時間がかかる)
『何、全ては時間が解決してくれるであろう。急く必要は無い』
まるでオレの問いに答えたかのようなタイミングだ、お父さん。
政宗様、思い詰めたような顔をしている。
お父さんを一方的に呼び出したのは桜だから仕方ないんだけど、もうちょっと的を得たアドバイスをしてあげてください。
(く…っ!?う…、頭が割れるー!!)
何してんの桜!?いいい痛いってばっ!
突如、尋常じゃない頭痛に襲われ、オレは実際に叫ぶことも出来ず、声無き悲鳴をあげる。
『…さらばだ梵天丸、政宗。桜殿の身体に負担をかける故長居は出来ぬ。お義を、伊達家を、任せたぞ』
「ま、待ってくれ父上!俺は、俺は…!」
強制的に暗闇へと意識が飛ぶ。
オレに体の自由が戻ったのは、がくんと力が抜けて畳に倒れ込んだ時だった。
鈍器で殴られたかのように頭が痛くて何も考えられない。
視界はぼやけて、最後に、涙を流す政宗様が見えた気がしたけど…これは錯覚?
END
[ 88/198 ]
[←] [→]
[戻]
[栞を挟む]