龍の目に涙



そんな無茶な頼みをして、勿論桜は返事を返さないけど、オレは体に異変を感じ、思わず胸を押さえた。
踏ん張っていられなくて、畳に膝をつく。


「う…っ…」

「おい…princess?」


それは酷い熱を出した時の、脳が溶けるような感覚に似ていた。
体は雪のように冷たくて、でも頭と血液はぶくぶくと沸騰しそう。
気持ち悪い…、強く唇を噛みしめて耐えようとした。

桜がしぶしぶ動き出し、何かを仕出かそうとしているのは間違いない。
オレは桜を信じて、この流れに身を任せよう。
それしか、政宗様を救う方法がないんだ。


「what's wrong?」

『る…、て…ま、…梵天丸…』

「っ…!?」


桜の口から発せられた低い声は、桜じゃない、知らない男のものだった。
一応五感は機能しているけれど、オレ自身は体の自由を奪われている。
桜が声を変えて喋っているのか?
いや、そうじゃない…

別の誰かが桜の中にいるんだ。
もうひとつの魂が(触れたら消えてしまいそうなほど弱々しい魂だ)オレのすぐ近くにあった。
貴方は、政宗様の何なの?
政宗様はどうしてこんなに驚いてるの…?


『梵天丸よ…暫し見ぬ内に立派になった』

「くだらないjokeはやめろ…」

『儂に免じて、お義を許してやってくれ…あやつは必ず己の侵した罪に気が付くだろう。儂は知っている。確かに、お義はお主を愛しておったのだぞ』

「stop! I don't believe it!どんな仕掛けがあるのかは知らねぇが、父上の声を真似るんじゃねぇ!」


父上だって!?
ああ、この人は政宗様のお父さんなのか!
お義って言うのは義姫様…お母さんだ。

許して、って言うけどさ、
実の息子である政宗様を殺そうとした…なのに、本当は愛していただなんて、オレだって信じられないんだ、政宗様が聞き入れるはずがない。


『梵、父を偽者と申すか…致し方ない。お主は儂によく似ておるからな!』

「っ…俺は夢でも見ているのか…?」


桜が大口開けて豪快に笑うはずがないし、仲違いをしている相手に冗談を言うほど陽気な人間じゃない。
政宗様も信じざるを得なかったんだろう、頭を抱えている。


 

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