龍の目に涙
「こんなにも人を愛することが出来る貴方を、どうして軽蔑出来ますか?」
「っ……」
「ただ…、悲しいと思いました。政宗様が、つらそうだから…」
「何が分かる…、アンタなんかに同情されてたまるかよ!アンタの瞳はcrystalだ。俺はその目が嫌いだ!」
政宗様は自分の右目を眼帯の上から手のひらで押さえ付けた。
傷口が痛むのか、政宗様の表情は苦痛に歪んでいる。
「政宗様はお母さんのことが好きだったから…、私を嫌うんですよね?」
「アンタには…関係ねぇ」
「嘘だ。大好きなお母さんに愛してもらえなかったから、雰囲気が似ている桜が怖かったんじゃないですか!?母親を見ているようで、その目で見られることに怯えたから…」
「黙れ!!」
激しい怒声と共に、視界が反転する。
瞬間的に目の前が真っ白になった。
殴られたんだと気付いた時には、頬に耐え難い痛みが走る。
口の中が切れたらしく、じんわり血の味がした(歯が折れなかっただけマシだ)。
最悪な状況に陥ってしまった。
余計なことを言ったから。
立ち入ったらいけない領域に土足で踏み込み、オレは、政宗様の逆鱗に触れてしまったんだ。
キレた政宗様はこの世のものとは思えないほどに恐ろしい形相をしている。
オレのせいだよ。
桜と政宗様の仲をさらに悪くしてしまった。
顔中痛いし、逃げ出したいぐらいに怖くて震えているけど…責任を取らずに、このまま帰れる訳がない。
(ここでオレが逃げたら、何も変わらないだろ!)
目をそらしたら、終わりだ。
話の論点は何故かまるきり変わってしまったけど、ひとまず幸村様のことは置いといて、先にこの問題を解決しなくては。
だけど…政宗様の忘れたい過去を無理に思いださせたりして、悪いことをした。
謝っとくよ…、ごめんなさい。
「女の子に手をあげるなんて最低!お母さんに見せてあげたいですね。貴女の重荷だった息子さんは…、強く立派に成長しましたって、告げ口しますよ」
「アンタ…、頭大丈夫か?何がアンタにそんな馬鹿な台詞を言わせているんだ?」
「政宗様とお友達になりたいから私は本音を言いました。それだけです」
ぎこちない関係を続けていたら、いつまでも胸張って友達だって言えないだろ。
悩みがあるならまずは相談しろ!
貴方には頼れる小十郎さんが居るだろ?
オレだって、役に立たないかもしれないけど、話ぐらいは聞けるんだから。
なあ、桜。
思うことがあるなら、オレに力を貸してくれないか?
政宗様に過去を克服してもらいたいんだ。
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