龍の目に涙



部屋の中心に座っている政宗様。
何とも言えない微妙な空気に耐えつつ、オレは静かに正座をした。
ああもう、口を開くのも億劫だ。
黙っていても良いですか?
何か聞かれたら、頷くか、首を横に振って答えるから!

相手の目を見れば、だいたいの感情を知ることができる。
もちろん、声を聞いた方が分かりやすいに決まっているけど、わずかな揺らぎや瞬きなど、瞳が見せる動きは多様だ。

だけど政宗様は独眼竜。
鋭い視線を送る片目から判断出来るものは少ない。


「アンタを奥州に招いたのは、一つは記憶を無くした事が事実か否かを確かめるため。そして二つ目は…、もう一度言い聞かせておこうと思ってな。真田が誰のモノか」

「え、何で、幸村様?」

「俺は、真田幸村を愛している」


愛している…それは好きの最上級、大好きよりもずっと上。
政宗様の言葉に動揺を隠せなかった。
意味を理解しようとすればするほど、頭の中がぐるぐるする。

それを、どうして桜に言う必要があるの?
幸村様は今でこそ桜を慕ってくれているけど、昔は顔を見るだけで青ざめるぐらいだったんだよ?
桜は、政宗様にライバル視されていたのか…?


「アイツは俺のモノだ。アンタにだけは渡さねぇ」


真っ直ぐな瞳に射抜かれてしまいそうだ。
それは幸村様のような嘘偽りないもの。
いつも真剣で、他を欺くことを知らない清らかな心を持つ人。

政宗様は真剣なんだ。
その鋭い瞳に射殺されてしまいそう。

思い返せば、政宗様が幸村様を見るときはいつも、優しい顔をしていた。
それは、親友としてじゃなく、恋愛的な意味で、幸村様のことが好きだったから?


「わ、たしは……政宗様が幸村様を幸せにしてくださるなら、何も言うことはありません」

「Not true!!嘘を言うな、以前のアンタなら軽蔑したはずだ!アンタはいつも冷たい目で、俺を見据えていた」

「何か言ったんですか?失礼なことを言ったのなら謝ります。だけど、私は…」


政宗様も幸村様もムカつくぐらいにカッコよくてさ、二人が並んだらそこだけ空気が変わるんだ。
驚いたよ、物凄く。
男同士って、簡単に受け入れられるものじゃないから。
オレの周りにもそんな人はいなかった。

でも自然と、気持ち悪いとは思わなかったんだ。
政宗様はいつきちゃんと似ている。
いつきちゃんは好きな人と身分が違うから、政宗様は性別が同じだから…、伝えることができない気持ち。

小十郎さんが言う通り、政宗様は優しい。
狂おしいほどの深い想いを打ち明けてしまったら、幸村様を困らせることになると分かっているんだ。

この人は心の底から、幸村様のことが…
ひたすら純粋に、恋をしているのに、報われない想いなんて苦しいだけだ。


 

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