切ない愛情
「小十郎さん、包丁は使いませんから…、卵と砂糖を分けて頂けないでしょうか」
ダメもとで小十郎さんにお願いをしてみたら、それなら…と頷いてくれた。
こうなったら自分で作ってやるんだ。
オレは大分不器用だけど、母さんと一緒に作ったことがあるから、きっと出来るはず。
…とは言っても、卵焼き用の四角いフライパンは無いから、普段通りにはいかないんだ。
熱した鍋目掛けて、溶いた卵に砂糖をドバッと加えたもの(計りが見当たらないから目分量。醤油も必要だ)を入れてかき混ぜて、菜箸で整えながら焼いたらそれっぽくなった。
これを一口サイズに切れば完成……って、包丁か!
「卵焼きを作られたのですね」
「そうですよ。すみませんけど、切ってもらえますか?」
小十郎さん、黄色い卵焼きを全部等間隔に切ってくださったよ。
細かいところまで気を遣ってくれるよな、人は見た目じゃないってことだ。
「桜ねえちゃんが作っただか?」
「味見してくれる?」
「勿論だべ!いっただきまーす!……、ねえちゃん、これ…」
な、なにその微妙な反応は!
まさか、砂糖と塩を間違えたのか!?
いやいや、小十郎さんが持ってきてくれたんだ、そんな初歩的なミスをするはずがない。
「菓子みたいにあめぇべ!砂糖の入れすぎでねぇか?」
「そ、そうかな…?でも、いいの!甘い方が美味しいんだよ」
「これじゃ飯の味が変わっちまうだよ?」
そんなことはないさ!
…やっぱり、受け入れてもらえないか、甘い卵焼きは。
もしかしたらオレが予想しているより激甘なのかと不安になって、味見をして確認しようと箸を取ったら。
「あ」
オレよりも先に、小十郎さんが卵焼きを口に運んでいた。
た、食べてもらえるのは嬉しいけど…いつきちゃん以上に厳しい批評がいただけそうです。
[ 81/198 ]
[←] [→]
[戻]
[栞を挟む]