切ない愛情



「小十郎さん、包丁は使いませんから…、卵と砂糖を分けて頂けないでしょうか」


ダメもとで小十郎さんにお願いをしてみたら、それなら…と頷いてくれた。
こうなったら自分で作ってやるんだ。
オレは大分不器用だけど、母さんと一緒に作ったことがあるから、きっと出来るはず。

…とは言っても、卵焼き用の四角いフライパンは無いから、普段通りにはいかないんだ。
熱した鍋目掛けて、溶いた卵に砂糖をドバッと加えたもの(計りが見当たらないから目分量。醤油も必要だ)を入れてかき混ぜて、菜箸で整えながら焼いたらそれっぽくなった。
これを一口サイズに切れば完成……って、包丁か!


「卵焼きを作られたのですね」

「そうですよ。すみませんけど、切ってもらえますか?」


小十郎さん、黄色い卵焼きを全部等間隔に切ってくださったよ。
細かいところまで気を遣ってくれるよな、人は見た目じゃないってことだ。


「桜ねえちゃんが作っただか?」

「味見してくれる?」

「勿論だべ!いっただきまーす!……、ねえちゃん、これ…」


な、なにその微妙な反応は!
まさか、砂糖と塩を間違えたのか!?
いやいや、小十郎さんが持ってきてくれたんだ、そんな初歩的なミスをするはずがない。


「菓子みたいにあめぇべ!砂糖の入れすぎでねぇか?」

「そ、そうかな…?でも、いいの!甘い方が美味しいんだよ」

「これじゃ飯の味が変わっちまうだよ?」


そんなことはないさ!
…やっぱり、受け入れてもらえないか、甘い卵焼きは。
もしかしたらオレが予想しているより激甘なのかと不安になって、味見をして確認しようと箸を取ったら。


「あ」


オレよりも先に、小十郎さんが卵焼きを口に運んでいた。
た、食べてもらえるのは嬉しいけど…いつきちゃん以上に厳しい批評がいただけそうです。


 

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