切ない愛情



以前、いつきちゃんの住む村に、政宗様達が視察に来たんだそうだ。
その時の縁なのか、小十郎さんとも親しくなったという。

屋敷へ戻ったオレといつきちゃんは、小十郎さんに迎えられて真っ先に、政宗様が一緒じゃないことをつっこまれた。
するといつきちゃんが先程の出来事を説明してくれる。

大袈裟に誇張して、政宗様の自業自得だ!と思う反面、次から次へ文句を言ってたら怒られないかな…とドキドキしていたんだけど。


「そうでしたか…、姫様、気を悪くされないで下さい。後できつく言っておきますので」

「い、いえ…私も失礼なことを言ってしまったので、政宗様だけに非があるわけではないんです」


なんて、口だけだ。
オレが悪いとは少ししか思っていない!
…少しだけ、だからな。

こっちも反省しているんだとアピールしたら、小十郎さんは同情の眼差しを向けてくる。


「貴女様が泣かれたのですから、政宗様は余程人道に反したことをおっしゃったのでしょう」

「いや、そこまででは…。あ、私も見学していいですか?お料理教室」

「それは、構いませんが…」


こんな暗い話をしていないで、楽しいことを考えよう!
政宗様に招待されたはずなのに、皆して別行動しているのっておかしすぎるけどな。



調理場に案内され、オレは初めてこの時代の台所をじっくり観察することが出来た。
ガスコンロは当然無くて、大きなかまどが鎮座している。
じいちゃんの家にはあったかな、薪を割って火をつけて、ご飯を炊くんだ。

オレは少し離れた場所で椅子に座り、二人の様子を眺めていた。
小十郎さんに、参加させてほしいとお願いしたんだけど、「怪我をされたら困るので却下」なんて言われてしまった。
他国の姫だもんな、責任負うことになったら面倒なんだよな。
それでも、見ているだけでも楽しいから飽きはしない。

いつきちゃんに、作り方やら何やらを丁寧に教える小十郎さん。
見ている限りだと、いつきちゃんは手際がいい、けど、火を使うと加減が分からないようで苦戦している。
あわあわしている様子がまた可愛らしい。
まるで休日のパパと娘のようだ。


(ああ…母さんの卵焼きが食べたい)


オレの父さんって変わった人で、コーヒーもブラックで飲むし、お菓子は大嫌いなのに、卵焼きだけは甘くないと嫌だって言うんだ。
小さい時から砂糖たっぷりの甘い卵焼きを食べさせられてきたせいか、オレもその甘さに慣れてしまった。

こっちの時代にも卵焼きはあるけど…ぶっちゃけ、味がない。
砂糖は貴重品です、幸村様用です、なんて言われたら、甘い卵焼きが良いとリクエストは出来ない。


 

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