凍れる人形



いつきちゃんに散々に言われた政宗様は、見るからに落ち込んでいた。
この二人、知り合い?
彼女は普通の子供に見えるけど…、国の主に蹴りを入れる度胸は普通じゃない。


「おらはいつき!ねえちゃんの名前は?」

「私は…桜。いつきちゃん、ありがとう、政宗様の魔の手から救ってくれて」

「当然だべ!でも、お礼言われるのは照れるな…へへっ」


か、可愛い子だな…
いつきちゃんって、さくらと同い年ぐらいじゃないかな。
さくらがオレと同じ時を生きて、成長していたならきっと…


(…さくら…)


どうしようもなく、懐かしさを感じてていた。
フィルターがかかったように世界はぼやけて、オレはさくらを捜していた。
いくら頑張ったって、さくらを見付けられるはずがないって、分かっていたのに。


「いつき…何をしに街へ下りた?」

「おらは、小十郎様に料理を教わりに行くとこだ」

「チッ…小十郎…俺は聞いてねぇぞ」


小十郎さんのお料理教室だと!?
いつきちゃんはエプロン、小十郎さんは割烹着…、想像したら大変なことになった。
興味本位だけど、見てみたい気もする。


「桜ねえちゃんも一緒に行こう?」

「えっ?」


いつきちゃんはオレの涙を拭ってくれて(しっかりした子だと感動した)、そして小さな手が桜の手を取った。


「おい、いつき!」

「ねえちゃんはおらがさらっていくかんな!いじめるおさむらいは置いてきぼりだべ」


手を引っ張られて、足を進める。
政宗様はまだいつきちゃんの名前を呼んでいたけど、オレは知らん。
「いい気味だべ!」なんて、イタズラっぽく笑ういつきちゃんが、さくらを思いださせる。
大好きだったあの女の子の笑顔を。

政宗様が桜と母親をダブらせているのとは理由が違うはず…、いや、同じか?
オレがこんなんじゃ、もう政宗様に文句は言えない。

ダメじゃないか、オレ。
何度も、桜にさくらを重ねて見たことがある。
自分でも気持ち悪いと思うぐらい、オレは妹に飢えていた。
そして今度はいつきちゃんの中に、さくらの影を見てしまったんだ。



END

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