凍れる人形
顔が全く笑っていない政宗様に連れられ、オレは奥州の城下町を歩いていた。
これほど重々しい空気のデートって有り得るのか…、お願いだから幸村様、戻ってきて!!
さすがは東北、甲斐よりもずっと寒い。
もう太陽は高く昇っているのに、気温が全然上がらないんだ。
この辺りは葉が散って丸裸の木が多いし、夜も、虫の鳴く声が聞こえなくなった。
冬が近いんだ…、空は青いけれど、雪が降れば白が一面に広がるんだろう。
「scheduleが狂っちまったぜ。真田の野郎、覚悟しておくんだな…」
政宗様のお怒りもごもっともです、同意はしたくないけど。
本来なら、親友の幸村様と過ごしたかったんだよな。
客人をほったらかしにはできないから、仕方なく町へ出たんだろうけど、こうして桜と二人で歩くことになるとは、きっと政宗様も予想しなかったはずだ。
オレも正直気まずいんだよね。
自分を好いていない人と二人きりとかさ…、政宗様は、幸村様や佐助さんとはまた系統が違うし。
この人と友達になれる気が、全くしない。
「おい、何か欲しい物があるなら言ってみろ」
「お気遣いなく!そういうものは、大切な人に買ってあげてください」
「Do you know?…俺の大切な奴が誰か知っているのか?」
「知りませんよ、記憶が無いんですから」
こんな答え方して、怒らせたかな?
オレも、もう少し柔らかい言い方が出来ればいいんだけど、どうも上手くいかない。
桜、マジでオレのこと操ってんじゃないの?
「少しはマシになったかと思ったが、相変わらずに冷たい女だな。本当に、crystal dollみてえだ」
「クリスタル…って、何てことを…!」
それって、桜のことを、冷たくって感情が無いお人形さんだって言いたいのか?
我慢していたのに、その一言でブチッと堪忍袋の尾が切れました。
いい加減自分の母親と桜を同一視すんのやめろって!
「見た目は大人でも中身はガキ以下じゃないですか」
「…何だと?」
「悲劇のヒロインぶんないでくださいよ!人生波乱万丈だからって!」
政宗様は大変な人生を歩んでいるけど、他人に怒りをぶつけるのは筋違いだろう。
こんな男のために泣いたなんて、悔しい。
…ううん、オレは桜のために泣いたんだ!そうに決まってる!
「俺から見ればアンタの方がよっぽど己の不幸に酔っていたぜ?甲斐のprincessは冷たい人形のようだ、誰に聞いても皆口を揃えて言うはずだ」
「それは……」
誤解、されているから。
桜は人間が嫌いだったんじゃないよ、人間の心が怖かっただけ。
甲斐の皆は少しずつ、桜の前で笑ってくれるようになった。
以前に比べたら進歩しただろ?
でも、政宗様や小十郎さん、他国の人は、未だに桜を誤解したままなんだ。
本当は…弱い、ただの女の子なのに。
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