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ルシア――――と途中で入れ替わったシルビオ曰く。
ルナールへの潜入は成功した。
だが、隠密に【最期の魔女】を捜索していたさなかに、ルナールの皇帝が暗殺されてしまったのだ。その罪を彼らに擦り付けられたばかりか、皇帝のみならずファザーン前王、カトライア法王の殺害もマティアスとその弟達とされてしまった。
お尋ね者になってしまった彼らも、身動きが出来ない状態にいる、と。
「……法王とほぼ同時に、ルナールの皇帝が殺された……ベルントがルナールの誰かと通じて機を見計らい反乱を起こしたということか?」
「そうとしか、考えられないな。よほど念入りに仕組まなければ、こんな荒技が成功するはずがない」
思い詰めた顔して唸る鼠とライオンに、鶯が控えめに介入した。部外者が会話に入るのに申し訳なさそうにしながら、窺うようにマティアスを見た。
「……あの、一つお伝えしておかなければならないことがあるのですが」
「何だ?」
「法王陛下は、ご存命です」
二人は目を剥いた。
「……どういうことだ?」
「兵士も申しておりましたでしょう。姿が見えないと。たったそれだけのことで殺されたという情報が流布された。それに何の疑問も感じられませんでしたか?」
「……あ、そういえば――――」
誰も、法王陛下が逃げおおせたなんて言っていない。ただ姿が見えないだけかもしれないのに、何処かで殺されてしまったのだと誰もが情報を鵜呑みにしてしまっていた。
鶯は己の胸に手を当て、目元を和ませた。
「法王陛下を密かに脱出させた後、陛下のお部屋を訪れたベルント卿やその側にいた兵士達に、私が幻覚を見せ、殺したと思い込ませたのです。勿論、人を斬る感触も錯覚させて」
兵士達全てが死体を確認出来る筈がない。情報が確かであると思わせるのは、酷く簡単なことだ。
それに、鶯が予(あらかじ)め城の人間全てに少々の暗示もかけて信じやすくしている。疑いを持った兵士が、探りを入れてベルントの手の者に殺されてしまわない為に。
「法王陛下は、別の場所に匿っております。後程、クラウス殿をご案内するつもりでしたが、その前にマティアス殿下をここにお運び致しました故に」
「じ、じゃあ法王陛下は無事なの?」
「はい。傷一つございません」
大きく頷く鶯に、ティアナは笑みを浮かべてマティアスとクラウスを見やった。
二人も鶯の言葉に安堵していた。かといって、完全に信じているようではないが。
「……おいおい、何か知らねー声だけど、信用出来るのか?」
「神に誓って、法王陛下の無事を保証致します」
鏡に頭を下げても、シルビオ達には見えない。
ティアナは真面目な鶯に苦笑をこぼし、シルビオを呼んだ。
「でもこの声の――――鶯さんはマティアスを助けてくれたの。だから私は信用しても良いと思う」
それに、動物に対してあんな顔をする人を、疑う気にはなれない。
マティアスやクラウスには悪いけれど、ティアナはそう断じた。
シルビオは目を細め、
「……ふうん。ティアナがそう言うんだったらまあ、良いけどよ」
と。
ティアナは小さく謝辞を述べた。
そこでシルビオは一瞬だけ視線を横に流した。何かを感じ取ったように目元を一瞬痙攣させた。
「そっちも大変だろうけど、オレたちにも追っ手がかかってて、あまり話している暇がない。だけど、こっちのことは任せておけ。必ず【最期の魔女】を助けて、カトライアに戻る」
「ああ、頼む。力になってやれなくてすまないが、今はお前たちだけが頼りだ」
シルビオは瞠目した。暫く固まって、困ったように笑った。
「お前から、そんな科白を聞くなんてな」
また、連絡する。
その言葉を最後に、鏡は何も映さなくなった。
ティアナは鏡を鞄に戻した。
「……クラウス。城を占拠したファザーン正規軍は、今どこにいる」
「ベルントは、兵の半分を国境へ向かわせているようだ」
「っ……やはり、そうか」
国境には、アルフレートと有間、そして鯨がいる。
つまりは、挟撃。
ティアナは思わず立ち上がった。
「た、大変! アリマ達が危ない……!」
「え……本当ですか!?」
鶯が有間の名前に反応した。色を失いティアナに迫った。
「有間様や狭間様は、この国にいないのですか!?」
「え、ええ……アリマ達を知っているのっ?」
「知ってるも何も私は――――」
「ウグイス殿」
マティアスがウグイスを制止した。
「その話は後程詳しく聞かせていただこう。だが、その前にティアナ。お前に頼みがある。今から書く手紙を、アルフレートの元へ届けられないか。そのシロフクロウで」
「手紙を……? 多分、大丈夫だとは思うけれど……」
シロフクロウは、先程から部屋の隅で目を伏せている。自分の話になったからか、ティアナが振り返ると同時に目を開けた。マティアスを追いかけて闘技場に向かった時からそのシロフクロウはティアナから距離を置いて邪魔にならないようにしていた。
ティアナはシロフクロウに駆け寄り、顔を覗き込んだ。
「あのね、手紙をあなたのご主人様の元へ届けてほしいの? 良い?」
シロフクロウは羽を広げ、了承するように鳴いた。
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