「関定さぁぁぁぁん!!」

「ぎゃあぁぁ死ぬぅぅ!!」

「真由香! 関定が死ぬ! 確実に死ぬって!!」


 三人の大音声が響く狭い部屋。
 張飛が真由香を関定から引き剥がし、椅子に座らせて落ち着かせた。

 世平が寝台に撃沈した怪我人の肩の辺りを叩き、意識の有無を確認する。小刻みに痙攣しているものの、一応気絶はしていないようだ。


「大丈夫か、関定」

「目覚めて早々、この仕打ちって……。本気で死ぬかと思った」

「す、すいません……」


 反省してうなだれる真由香に苦笑し、関定は寝転がったまま片手を振った。彼とて真由香が抱きつくぐらいに自分を心配してくれたのはとても嬉しかった。それに力一杯抱きつけるということは、彼女が元気であるという証明でもある。そのことに安堵を覚えない筈もなかった。

 世平に支えてもらいながら上体を起こすと、光を捉えない真由香の目の周りが腫れているのに気が付いた。
 ああ、泣いていたのか。
 そこまで心配しなくても良かっただろうに。
 関定ははは、と小さな笑声を漏らしながら目を細めた。

 すると、笑っている場合かと世平に拳骨を落とされた。


「最低でも一ヶ月は折れた腕は治んねえぞ」

「え、そんなに酷ぇの?」

「腕がな。頭の傷はさほど酷くはねぇが」

「なので私が責任持って関定さんのお世話を、」

「いや、良い。要らない」

「ええっ!?」


 全盲の彼女に世話なんてされたらこちらが心配で無駄な心労を抱えそうだ。
 即答で拒んだ関定に同意するように、世平も張飛も口々に同意した。

 それに、真由香は大袈裟な反応を示して――――いや、本人にしてみれば至極真面目にしているのだけれども――――がくんと肩を落とす真由香の頭を、世平が宥めるように撫でた。


「まあ取り敢えず、良かったじゃねえか。二人共無事で」

「……無事じゃ、ないです」

「関定なら大丈夫だ。お前はお前で、暫くは自分の身体の管理を徹底しとけ。お前だって怪我人なんだから」

「私なら丈夫ですから! だから私関定さんの看病します!」

「張飛、真由香を抱えて帰れ。関定が死ぬ」

「合点!」

「死にませんってば!」


 猛抗議する彼女に、しかし世平は冷たくあしらって張飛を促す。
 肩に担がれた真由香がここに残ると喚き、世平に口を強引に閉じさせられていた。その中で、倒れてから一日中付きっ切りだったと聞いた関定は世平に待ったをかけた。


「なあ、オレ達が穴に落ちたのっていつ?」

「ん? ……ああ、分からねえのも無理は無えか」


 一昨日だ。
 世平の返答に、関定は顎を落とした。

 二日も寝ていたのか?
 一度も起きもせずに。
 思ってた以上に、身体は損傷していたということか。
 改めて自分の身体を見下ろし、関定は吐息を漏らした。

 そんな彼に、世平は首筋を掻きながら、


「まあ、取り敢えず良かったな。生きてて」

「あー……うん。そうだな」


 暫くは難儀しそうだが、命あっての物種だ。
 関定は肩をすくめて同意した。

 ぎゃーぎゃーと騒ぐ真由香を見やり、笑声を漏らす。


「残ります! 私も残ります!」

「いやお前がいたら関定がキツいって。それに真由香も暫く外出禁止になっただろーが!」


 残る、駄目だ――――そんなやりとりを延々と繰り返す二人は、少々やかましい。
 そんな二人を眺めながら関定は再び横になろうとする。すかさず世平が支えてくれた。


「オレ今日はこのまままた寝るわ。真由香ー、じゃあなー」

「関定さん!?」

「真由香のこと頼むぞ、世平」

「分かってる。お前も、無理はするなよ」


 ひらりと片手を振ると世平は苦笑を浮かべて張飛を呼んだ。
 抵抗する真由香を押さえ込むのに必死な彼はしかし、世平の声に応じて、嫌がる真由香を無理矢理外に連れ出した。

 彼女は家を出てからも騒いでいた。それだけ心配してくれるのは有り難いけれど……そこまで騒がなくても良いだろうに。


「後で蘇双や関羽達が様子を見に来るだろ。ちゃんと、ゆっくり休めよ」

「へいへい。分かってるよ。っつーか、こんな身体じゃ何も出来ねえし」


 これからずっと退屈だろうな。
 そう言って口角を歪めてみせると、世平は苦々しい微笑みを浮かべて扉に手をかけた。開き、出て行く。

 それを見送って、関定は長々しい吐息を漏らす。
 天井を見上げ、目を伏せた。


「これから暫く、寝たきりかー……」


 これからどうすっかなぁ。
 独白し、関定は後頭部で腕を組んだ。

 生きていて幸い、だとは思うけれど……長期間何も出来ないのは、想像するだけでも苦痛だ。
 ……らしくないことをした所為だろうか。
 吐息を漏らし、関定が口元を綻ばせる。


「……ま、真由香が無事だっただけでもめっけもんか」


 それで良しとしよう。



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