悠璃様
†リクエスト内容
劉備。
劉備の護衛で劉一族でありながら混血。幼馴染みだが劉備に嫌われ(訳あり)猫族からも疎まれる。
劉備が呪いを受け入れた後、曹操に気に入られ仕方なく曹操の元に身を寄せるが、曹操と(端から見ると)仲よさげな夢主に劉備が嫉妬。
最後はラブラブ。
※文字数の関係でかなり省いています ○○は劉一族でありながら、人間との混血だった。
彼女は痩せぎすで、年頃の女であるにも関わらず、括れも無く肉付きも悪い。ほとんど表情も動かないのも手伝って、悪く言えば劉の血を引くとは到底思えない貧相な娘だった。
何故痩せているのか、その理由の一端は猫族の長にあるのかもしれない。
「……」
「劉備様。召し上がらないのですか?」
「……要らない」
「左様にございますか。では、私も食べる訳には参りませんね」
箸を取らない劉備に頭を下げ、○○は箸を置く。
彼は憮然と○○から顔を逸らし、すっくと立ち上がる。
何をするのかと思えば、無言で家を出て行ってしまった。恐らく、関羽達の家に行ったのだろう。
劉備は小さな頃から○○を避けていた。否、嫌っていると言った方が正しいのかもしれぬ。
長が嫌っていることからか、猫族全体でも○○の扱いはこと辛辣だった。満足に食料を与えてももらえないし、嫌がらせを受けることもある。
それでも、劉備が自分を避ける理由を漠然とながら知っているから、○○はずっとそれに耐えて護衛として勤めてきたのだった。
きっと、これからも変わらないだろう。
自分は、劉備を守る以外に役目が無いのだから。
幼い頃から、そうだった。
‡‡‡
猫族には呪いがある。
かつて、劉備の先祖が倒した金眼による呪いだ。猫耳があるのはそれ故のこと。
劉備は呪いが一番濃く、成長が遅いのもその為であるという。
猫族の手で、劉備の中で彼を蝕む金眼を再び倒さんとしたのはもう一ヶ月も前のことだ。
結局、劉備の中に呪いは残り、彼の身体もそのままだ。
ただ、時折年相応の劉備が出て来ることがある。本来は偃月の夜にしか現れなかった筈の彼が、昼間でも出てこれるというのは、呪いが弱まっていると取っても良いだろう。
それ以前に年相応の劉備に会ったのは、関羽だけ。
金眼との戦いにも、○○は参加させてもらえなかった。成長した劉備に『○○には関係ない』と斬り捨てられて。
さすがに、あれは堪えた。
「○○、何をしている」
「……曹操殿」
その時のことを思い出していた○○は不意に呼ばれてはっと顔を上げた。
首を巡らせれば、扉を開けて曹操が入ってきている。
今、彼女は曹操の元にいた。○○が人間との混血だと知った彼は、何故か彼女を気に入り、金眼のことが収束してから側に置いているのだ。
劉備の発言に傷心してした時に無理矢理連れて行かれたから、諦めるのも早かった。
猫族では、何と言われているだろうか。――――いや、少し前に売女と言われたっけ。
「今日は何のご用ですか」
「少し付き合え」
「……分かりました」
腰を上げて、○○は部屋を出る曹操の後に続く。
曹操は毎日○○のもとを訪れる。そうして、茶とか、碁とか、他愛ないことをして帰るだけ。
正直、彼の突然の変化に未だ戸惑いを覚えている。
今日は○○を連れ立って、中庭の散歩でもするつもりなのだろうか。
「今日は猫族来ているようだ。会っていくか?」
「……いえ。私は猫族ではないと思われているので、会わない方がよろしいでしょう」
曹操のもとに身を寄せてから、○○は猫族との接触を避けていた。もう、怖くなってしまったのだ。昔は耐えられていたのが、今は怖くて怖くて仕方がない。
劉備が自分を避けていた理由も、今では自分の認識が正しいのか分からなくなってしまった。
自分は猫族ではないのか。
劉備の傍にいても良いのか。
――――分からない。
分からなさすぎて、不安だ。
「そうか。では、私の部屋で茶でも飲んで行くと良い」
「はい」
ここに来てからちゃんとした食事をとれるようになり、○○の身体も本来の女性らしいふくよかさを取り戻した。無かった筈の胸も、関羽程ではないが服の下から分かるくらいにはある。
しかし表情だけは、動かないままだ。
と、曹操が○○の手を持った。
何事かと見上げれば、ぐっと引かれた。
彼の秀麗な顔が接近してくる――――。
「止めろ!」
‡‡‡
中庭で曹操と並んで歩く○○を見かけた。鍛錬場から見えたのだ。
この日猫族は曹操軍の鍛錬に参加する為に訪れており、ほとんどの猫族は彼女の姿を見た。
「あら、○○だわ」
「……アイツ、今度は曹操に媚び売ってんのかよ。オレ達が世話してやってたのに……」
忌々しそうに○○を睨む張飛を、関羽が宥める。だが、傍目から見れば二人はまるで恋人だ。○○は無表情だが、曹操があんな風に穏やかに笑うのを見たことが無い。
その側で劉備が曹操を睨めつける。彼にしては珍しく、憤怒が滲んでいる。ぎゅっと両手を握り締めた。
「けど、どうして曹操、○○を無理矢理連れていったのかしら。今まで○○には興味なんて無かったのに」
「んなの、知らねーし、知りたくもねーよ。なあ。劉備」
「……」
「劉備?」
張飛が呼ぶが、劉備はくっと呻いて鍛錬場を飛び出した。
「ちょっ、劉備!?」
「ちょっと関羽。劉備様どうしたの?」
彼が駆け出すのを見ていた蘇双が二人に駆け寄る。
けれど、関羽にも分からない。
「と、とにかく追いかけなくちゃ!」
関羽は偃月刀を張飛に押し付けるように渡し、劉備を追って駆け出した。
劉備は真っ直ぐ曹操達へと向かっていった。
何故かは分からない。○○に用があるのだろうか、でも彼女を一番嫌っていたのは劉備だった筈だ。だから猫族の皆も彼女には辛く当たっていたのだ。
されど彼は急に接近した二人を裂くように身体を割り込ませて○○を引き剥がしたのだ。
「止めろ!」
「!?」
「え、劉備?」
「……何だ?」
ぎゅっと○○の身体を抱き締めて曹操から離す。
○○は目を白黒させて曹操と劉備を見比べる。
劉備は○○を離さない。曹操を睨め上げている。
「……っ」
「り、劉備? どうし――――」
「僕の○○に触るな!!」
驚愕。
関羽は曹操と顔を見合わせた。
‡‡‡
一瞬思考が停止した。
○○は劉備を茫然と見下ろしている。
「え、あの……劉備、様」
「曹操、○○は僕のなんだ。君には渡せない。○○に手を出さないで」
幼い劉備ではない。年相応の劉備なのだ。
「あ、の……私は、」
「……」
「っわ……!?」
劉備は○○を睨め上げると、ぐいと胸座を掴んで引き寄せた。
そして――――唇を合わせた。
触れるだけの口付けだ。
関羽がはっと息を呑む。
曹操が瞠目した。
が、一番驚いているのは○○本人である。
どうして、自分と劉備が唇を合わせているのか、分からない。
そんな関係ではないのに……。
唇が離れた瞬間、○○は咄嗟に劉備の肩に手を掴んで引き剥がした。
「な、何、を……!?」
「……」
劉備は○○から視線を下に落とし、またすぐに見上げる。
強く見据えられて○○はたじろいだ。
「僕は○○が好きだ」
「は……はい?」
「今まで呪いで君を傷つけないようにって避けていたけれど、もうその必要も無い。だから僕は……」
手を握られる。
それに、ぽたりと落ちる物がある。
水だ。
○○の黒い双眸から溢れ出した水が、手に落ちたのだ。
「○○」
○○はその場に座り込む。
彼の言葉が信じられなかった。
ゆらゆらと揺れる心中に戸惑いが隠せない。
今更、そんなことがあって良いのだろうか。
劉備は屈み込んで彼女の顔を覗き込んだ。不安そうに、金の瞳が揺れる。
「僕は、堂々と君を欲せる」
「わ、たしは……」
「ごめんね。君にはずっと酷いことをして来た」
顔を寄せて、舌で涙を拭う。
「劉備様」
「ごめん。でも、本当に君が欲しいんだ。僕はずっと、君が……」
「ごほんっ」
再び顔を近付けようとした劉備に待ったをかけるように、誰かが咳払いをする。
ぎょっと顔を上げれば、曹操がこめかみを震わせていた。
そこで、周囲の視線もこちらに集まっていることに気が付く。鍛錬場からは、夏侯惇も猫族も見ていた。
○○の顔が爆発したようにぼっと赤く染まった。
「うあ、あの……いや、私……そのっ、あ、ちが……こ……!」
「お、落ち着いて○○……!」
刹那。
○○は劉備を押し退けて立ち上がると、一目散に逃げ出した。
劉備は手を伸ばすが、追いかけることはしない。
その顔には、微かな笑みがあった。
関羽が、彼に近付いた。
「劉備、あの……これは一体どういうこと? あなた、○○のこと嫌っていた筈じゃ……?」
「……」
劉備は関羽を見上げた。
だが――――その眼差しはあどけない。
「関羽? どうしたの?」
「え? あ……ううん」
「……あれ、○○は?」
きょろきょろと周囲を見回す劉備に、かつて○○を嫌っていたような素振りは見受けられない。
何が何なのか、関羽には分からなかった。
それは曹操も同様である。
「えと、さっき何処かに走って行っちゃって……」
「じゃあ、捜してくる!」
「え、ええっ?」
どうした。
何がどうなっている?
どうして劉備があんなことを……。
走り去る劉備の背中を眺め、関羽は曹操を見やった。
「曹操……今のは一体……?」
「私に訊くな」
「ご、ごめんなさい……」
この時の曹操は酷く、機嫌が悪かった。
●○●
悠璃様リクエストです。
微妙に三角関係になってます。ちなみに関羽が混血だとは曹操知りません。夢主も言ってません。
あと、最初はこれ構想の段階では二ページかかってましたが、何とか色々と省いたりまとめたりして一ページにまとめています。
悠璃様、お気に召していただければ幸いですが、もし書き直して欲しいとあればいつでもお受け致します。
この度は企画に参加していただき、まことにありがとうございました。
お持ち帰りは悠璃様のみになります。
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