唐草様



†リクエスト内容
 曹操END後、全快した曹操に迫られて困惑する夢主。
 甘々。




 ……どうしよう。
 幽谷は己に覆い被さる男を見上げ、口角をひきつらせていた。

 黒の双眸が幽谷を捉えている。その深い色の中には、くすぶる獰猛な感情が窺えた。

 ああ、彼の部屋に来るんじゃなかった。
 この男――――曹操は、幽谷とは恋仲の関係にある。先日、袁紹の謀略によって得た傷も完治し、仕事をこなせるようになった。剣を持つことも出来る。

 長い間寝台から離れられなかった彼は、動き回れるようになると一気に幽谷に迫るようになった。夜には、寝台に連れ込まれそうになることもある。その度に、上手く逃げ出せていたのだが……さすがに、避けすぎていたらしい。

 ……何となく、彼から怒気を感じる。
 どうすれば良いのか、幽谷は困り果てていた。

 そんな幽谷に、曹操はねっとりと低く語りかける。


「――――さて、幽谷」

「なん、でしょう……」

「何故、私を避ける」


 口角をつり上げ、酷薄な笑みを浮かべる曹操に、背筋がざっと冷えた。
 これは、返答を間違えたら本当に危ない。


「そ、それは……避けていたと言うより、あなたの代わりにやることがあったので……」

「それは全て夏侯惇達がやっていただろう」

「う……」


 慌ててついた嘘も即座に看破される。

 両手は曹操に縫いつけられているので、逃げようと思ってもどうすることも出来なかった。
 曹操は関羽と同じ猫族と人間との混血である。その血の所為か、曹操も関羽のように身体能力が異様に高かった。
 まして回復したばかりの身体となれば、全力で拒否出来ない。

 だがこのままでは――――冷や汗が流れる。


「そ、曹操殿……あの、」

「私はお前を離しはしない。お前も、私から離れはせぬと、言っていたであろう」


 右手が持ち上げられたかと思うと、曹操はその肌に赤い舌を這わせた。幽谷にまざまざと見せつけるように。

 幽谷は顔を赤らめて視線を逸らす。直視できなかった。

 出会った頃に比べて、彼女は表情が良く動くようになった。関羽や猫族はそれを喜んでいるが、正直曹操は面白くない。
 全てを欲する彼にとっては、彼女が別の誰かに笑顔を向けるだけでも許せないのだ。子供のような嫉妬だが、曹操の生き方を考えれば、それも無理もないことである。

 ふと、曹操はきめ細かい肌に歯を立てた。


「ん……っ」


 幽谷の身体がびくりと跳ねる。
 痛みすら、曹操に与えられたのなら快楽に変じてしまうのだから、自分は曹操の色に完全に染まりきっている。

 くっきりと残った歯形を舌でなぞり、にやりと笑った。
 婉然たる笑みに、危機感は更に増す。

 幽谷は早鐘を打つ胸に静まれと念じながら、この状況から逃れる方法を思案した。

 だが、曹操がそれを許す筈もない。


「幽谷」

「え、あ――――」


 曹操は幽谷の口を塞いだ。
 舌を侵入させ、歯列をなぞり、上顎を撫で、逃げる幽谷の舌を絡め取り、吸い上げた。


「ふ……ぅっ」

「っは……幽谷」


 愛していると、彼は甘く囁く。
 間近で何度も何度も囁いては、幽谷の意識までをも犯すのだ。

 羞恥か、息苦しさからか、視界が涙で滲んでいく。
 ようやっと顔が離れた頃には、幽谷の息は上がって、抵抗もままならない程に身体が弛緩していた。


「曹そ、殿……」

「……傷が癒えるまでの間、お前とこうすることをどれだけ願っていたか」

「……あ、」


 額に口付けを落とされた。

 曹操は幽谷の上体を起こすと、ぎゅっと抱きすくめた。
 細い肩に顔を埋め、吐息を漏らす。


「あの時、私は確かに死を覚悟した。お前の為ならば、死んでも惜しくはないと考えた」

「あの時……」


 あの時、犀煉の毒に冒された幽谷――――四凶の為に曹操は命を賭けた。
 袁紹はそれを嘲笑い、曹操が猫族と人間の混血だ、四凶と同じくはみ出し者であると全ての兵士に言って聞かせた。それ故に、似た境遇の四凶に下らぬ感情を持ち、ここまで出来るのだと。

 曹操も関羽も、人間でも猫族でもない――――そう彼は言ったが、それは間違いだ。
 二人は人間であり、猫族なのだ。

 四凶とは違う。

 幽谷は、曹操が愛しいから彼の側にいる。
 曹操も、自分を愛しているからああしただけのことなのだ。

 だが、それでも自分の為なんぞに命を張る理由なんて無い筈だ。


「曹操殿……私の」

「私の為に命を張らないで下さい……か? あの時、お前はそう言って、満身創痍の私を殴ったな」

「あれは殴ったのでなく……いえ、申し訳ありませんでした」


 厳密に言えば殴ったのではない。曹操が気を失いそうだったから、平手打ちをしただけだ。それに、その前にちゃんと一言謝った。勿論夏侯惇にも、夏侯淵にも。

 苦々しく顔を歪めれば、曹操は含み笑いをした。


「あの時気を失っていれば、私は死んでいたかもしれない。少々痛かったが、感謝している」

「……皮肉混じりに言わないでもらえますか」

「だが、私はお前の為ならば命など惜しくも何ともない。その考えは変わらぬ。お前にどう言われようともな」


 文句を言おうとしたが、素早く手で口を塞がれる。


「私はお前に我が命をやる。その代わりに幽谷、お前は私にお前の全てを差し出せ」


 拒否を許さない命令だ。
 されど、それは幽谷にとっては甘美な鎖で。
 縛られても決して苦しくない、真綿の拘束。

 口から手が離れ、近付いてくる曹操の顔に、幽谷は抵抗すること無く、ふっと目を伏せた。

――――その時である。


「な……っ!?」


 視界が回った。
 再び押し倒されたのだと、半瞬遅れて気が付いた。

 背中に感じる寝台の感触に、とろけかけていた幽谷の頭は一気に冷めた。


「あの、曹操殿!」

「どうした」

「……い、今の流れで、こうなるんですか?」

「ああ。言っただろう、傷を癒す間、ずっとこうなることを望んでいたと。私にお前の全てを差し出せと」


 くっと口角をつり上げる曹操に、顔がひきつった。


「今は昼なのですが……」

「関係ない」

「っちょ――――」

「お前は、私のものだ」

「……っ!」


 伸ばした腕は、すぐに押さえ込まれた。



●○●

 昼間から彼女は美味しくいただかれました。(多分長いこと解放されない)
 私が曹操を書くとこんな風になります。何故かエロチックが入ります。
 ちなみに関羽での曹操ルートとは、少しばかり変えています。

 唐草様、お気に召していただけましたでしょうか?
 この度は企画に参加していただきまして本当にありがとうございました!

 お持ち帰りは唐草様のみとなります。返品も然りです。



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