みーな様





†リクエスト内容
 曹操。
 異母妹を妻にする曹操。
 曹操と異母兄妹と知らぬ夢主と周囲。




 ○○は曹操の妻である。
 大人しく、あまり自己主張をしない彼女は昔から病弱でもあり、曹操に過剰な程に大切にされていた。兵士は愚か夏侯惇達に接触するのも許さず、彼女に付かせた女官には毎日の報告を義務づけている。

 彼の愛しようは異常である。
 そんな風に、影で言われていることに曹操は気付いているだろうか。


「○○。身体はどうだ」

「曹操様。はい。さして酷くもありませぬ故、すぐにでも治るだろうと先生が仰っておりました」


 嬉しそうに笑って上体を起こそうとする妻を、曹操は手で制す。

 曹操は○○の傍に腰を下ろすと彼女の頬を撫で微笑んだ。
 愛おしい。心から彼女が愛おしい。

 ○○は僻地に軟禁されていた。彼女が曹操の目に触れることを恐れた彼女の父親の仕業だ。
 ○○は母方の祖母の影響か、《予知夢》を見ることが出来る、希少な存在だった。それ故に彼女の父は自分の為だけに利用出来るよう、誰も知らぬ場所に閉じ込めておいたのだ。

 未来を知る前に自身が殺されたのは、皮肉な話だが。

 ○○の能力は確かに素晴らしいものだ。
 しかし、それは確実に○○の身体を蝕み、寿命を縮めてしまう。
 現に曹操が捜し出した時、○○の身体は見る影も無い程に痩せ細り、衰弱しきっていた。
 数年経った今でも彼女の身体は満足に歩けるような身体ではなく、元々病弱なこともあって、どんなに軽い病でも命取りになりかねない。

 こうなることが分からないでもなかったろうに、彼女は父親に答えて予知夢を見続けた。母はすでに亡く、ずっと孤独であった彼女は、父親が自分の力を求めて屋敷を訪れるのがとても嬉しかったのだ。また来てもらおうと、期待に答え続けて、弱っていく身体に見ないフリをした。

 全ては、唯一の肉親の為に。

 ○○はそう信じ込んでいる。父も死んだ今、自分にはもう血縁者は一人もいないのだと。

 だが、それで良い。
 そう思っていてくれた方が曹操にとっては好都合だった。


「曹操様。久し振りに夢を見たのです。未来ではありません。ただの、他愛ないけれど不思議な夢でした」


 その夢の中では、わたくしと曹操様は夫婦ではないのです。
 楽しそうに、まるで少女のように笑みを浮かべる○○に、曹操は首を傾けた。


「夫婦でない? では、何だ」

「それが、わたくしたち、兄妹なのです」


 瞠目。
 曹操の手が止まった。


「驚きましたよね。わたくしが曹操様の妹なのです」


 ですが、曹操様がわたくしのお兄様であっても、わたくしはきっととても幸せだったでしょう。
 だって曹操様はお優しい方ですもの。兄として、今のようにわたくしに接して下さるの思いますの。
 嬉々として語る○○に、曹操は黙り込んだ。

 だが○○が不審がる前に笑みを作りそっと口付けた。


「だが、兄妹であればこのようなことも出来ぬ筈だ」

「……もう、曹操様ったら」

「さあ、もう寝た方が良い。無理をして再発しては敵わぬ」


 曹操は○○の目を手で覆い隠した。

 ○○は不満な声を上げる。


「そんな、わたくし、まだ曹操様ともっと沢山お話ししたいです」

「それは完治してからだな。大丈夫だ、眠るまでここにいる」

「本当ですか? 絶対に、約束ですよ」

「ああ」


 ○○はここに来てから、一人で眠ることを極端に怖がる。曹操や女官に傍にいてもらわなければ眠れないのだ。
 ここは眠る時、軟禁されていた屋敷よりも沢山の声が聞こえるのだそうだ。その声の正体は漠然と察するが、そうであるならば恨み辛みがほとんどだろう。彼女には酷かもしれない。

 けれど曹操には○○をこの屋敷から出すつもりなど全く無かった。


「さあ、○○」

「……はい」


 ○○は頷いた。
 曹操の手に、瞼が落ちる感触。
 彼はそこから手を離すと、○○の細い手を握った。



‡‡‡




 まさか、○○がそんな夢を見るなんて思わなかった。
 額に浮かんだ汗を拭い、曹操は寝台から立ち上がる。
 すっかり寝入ってしまった愛妻の寝顔を見下ろし、ふっと自嘲するように口角を歪めた。


「私が、○○と兄妹か……」


 お前は本当に聡い娘だな。
 そこに褒める響きは無かった。ただ、淡々と呟く。

 もし――――もしその夢が夢で済むものでないと知れば。
 彼女はどう思うだろうか。
 妹として曹操を拒絶するだろうか。

 そうなれば自分は……いや、それでも絶対に彼女を逃しはしない。

――――そも、何故曹操が○○の軟禁場所を知ることが出来たのか。
 彼の父が大切に隠した地図に記された暗号を解読し導き出した場所が、○○の軟禁されていた屋敷だった。
 曹操の手によって殺された後、地図は発見された。そして、○○のもとに彼女の父親が現れることはぱたりと無くなっている。

 加えて二人の父親の名は、共に曹嵩……そう。



 ○○の父親と、曹操の父親は、同一人物なのである。



 二人は異母兄妹。
 男女の関係など許されぬ。

 だのに、曹操はそれを知っていながら事実を伝えること無く○○を愛し、妻とした。
 とてもじゃないが、正気の沙汰とは思えない。


「もし、お前があれに私の妹だと知らされていても、私は無理矢理にでもお前を娶ったであろうな」


 ○○は、美しい。見てくれの問題でなく、その存在自体が清らかだ。
 蛾が光に集(たか)るように、穢れは清らかなものに惹かれ行く。出会った時も、弱り切った身体を抱き締めたい衝動に駆られた。

 曹操にとって、彼女は最初から一人の女にしか見えなかった。何としても、自分の檻に閉じ込めておきたかった。別の人間のもとに行くくらいなら殺してしまおうと思う程に。
 かつて誰にも与えられなかった愛情を一心に注いでくれる○○は、それ程に掛け替えのない女性だったのだ。

 仮に彼女が曹操を兄と慕っていても関係はなかった。必ず抱いて夫婦の契りを交わしていただろう。

 そうして、ずっとここに閉じ込める。


「――――私はあの男と同じだ」


 自分の勝手で妹を女にし、自分の勝手でここに閉じ込めて。
 所詮私はあの男の子供。

 ……だが、それでも良い。


「こうすることでお前が私だけを見てくれるのならばそれで構わない」


 眠る○○に語りかけるように曹操は甘く囁く。

 すると、彼女は身動ぎして、曹操の名前を掠れた声で呟くのだ。

 曹操は嬉しそうに微笑み、妹の額に口付けた。

 彼の頭が正常でないことを、彼に指摘出来る者は一人もいない。

 この狂気、終わりはあるのだろうか。あるとすれば、その時二人はどのような決別をするのか。

 その答えは曹操本人にも分からないことである――――。



●○●

 みーな様リクエストです。

 夢主が曹操に屋敷から連れ出された際、唯一身の回りの世話をしていた置いた女官がいたのですが、曹操にその時殺されています。
 夢主には暇を出したと言っていますが。

 女官も夢主が曹操の異母妹だということを知っていたので、存在されては不都合だった訳です。その時すでに曹操は夢主を妻にする気になっていましたので。

 ……と、どうでも良い裏設定を語ってみました。

 初めましてみーな様。
 がらりと変えると言うより、設定を加えていますが、お気に召していただけたらと思います。

 長らくお待たせしてしまって申し訳ありません。

 みーな様の応援、ありがたくいただきます! これから頑張って書いていきますね。
 この度は企画にご参加下さり、本当にありがとうございました。
 お持ち帰りはみーな様のみとなります。



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