ハルカ様
†リクエスト内容
趙雲。
夢主は夏侯惇の双子姉。
趙雲に気に入られて逃げるが結局捕まる。 ○○は、よく転ぶ。
何故かよく転ぶ。
普通に歩いていても、何も無いところで躓(つまず)いてしまうし、走ろうものなら十歩に一度は転ぶ。
夏侯惇の双子の姉である彼女でも、武術とは程遠い娘だった。
「あたた……!」
「また転んだのか、○○」
夏侯惇は呆れたように溜息をついて、顔面を強打した○○に手を差し出した。
「鼻血は出てないか?」
「出ません! 今まで怪我したこと無いし、鼻からも血が出たこと無いの自慢なんだから」
「自慢になるか。前々から思っていたが、やはり馬鹿だな」
「言い返せない……!」
拳を握った○○は、歯噛みした後夏侯惇に促されてその手を取った。力強い力で引き上げられて立ち上がる。服に付いた埃などを払い落とすと、夏侯惇はその様を見ながらまた溜息を漏らすのだ。
「まったく……どうしてこうも運動音痴なのだ、お前は。俺は忙しいんだ、手間をかけさせるな」
「え、これって運動音痴なの? 特異体質じゃないの?」
……殴られた。
きっと睨みつけるが、夏侯惇は鼻を鳴らして笑った。
だが、そんな彼も○○を心配してくれていることは彼女も分かっていた。だからこうして仕事の合間に、書庫の管理を任されている○○に頻繁に会いに来てくれるのだ。そして、今みたいに書庫にいなければ捜しに来てくれる。
だからこそ、この体質をどうにかしたいのだけれど――――。
「兄者! ○○姉さん!」
「あ、夏侯淵」
回廊に響いたのは従兄弟の夏侯淵の声だ。
○○は笑顔で声のした方を見やる。が、狼狽した彼の様子に夏侯惇と顔を見合わせた。
「どうした、そんなに慌て――――」
「奴が来た!!」
途端、○○はさっと青ざめてしまう。夏侯淵の言葉に、過剰な反応だった。
夏侯惇も色を変えて腰に佩(は)いた剣に手を伸ばした。一気に殺気立つ彼の背中に○○はさっと隠れた。
だが、夏侯惇は舌打ちする。
「逃げろ、○○! 出来るだけ遠くに!!」
「えっ、で、でも……!」
「安心しろ、ここは死んでも抜かせん。俺たちのことは良いから、早く逃げろ」
「……う、うん……!」
和やかな空気は一転する。緊迫した雰囲気の中、○○は泣きそうな顔でその場を大急ぎで離れた。
そこへ――――。
「○○!」
嬉しそうな声が聞こえた。
‡‡‡
夏侯淵の後ろから走ってきたのは趙雲である。○○の姿を見るなり笑顔になったが、彼女が逃げてしまったことに残念そうに眉根を下げた。
彼の前に立ちはだかるは夏侯惇と夏侯淵。剣を構え趙雲を威嚇する。
「趙雲!! ○○のもとには行かせ――――」
「すまない、話は後にしてくれ!」
彼は早口に言いながら二人の脇を通り過ぎる。
夏侯惇は瞠目し、眦を更につり上げた。
「なっ、この……!!」
「任せてくれ兄者! はあぁぁぁっ!!」
趙雲の背中に夏侯淵が斬りかかる。
趙雲は咄嗟に横に飛び退いたがそのまま走っていく。彼らの攻撃も、○○の前には意味は無かった。
夏侯淵は歯噛みし、彼を追いかける。夏侯惇も趙雲を怒鳴るように呼び、床を蹴った。
――――それを、やや離れた場所から眺めている猫族が二人。
蘇双と関定である。二人共、丁度ここに通りかかって一連の成り行きを眺めていたのだが、呆れ顔である。
「……一体何回あの茶番をやるつもりなの、あの人達」
「いやまあ、必死さは伝わるよな。うん。仲良いよなぁ、あいつら」
「馬鹿馬鹿しい。毎日やらなくても良いだろうに」
「……多分、あいつら分かってねぇな」
二人は顔を見合わせ、嘆息する。
‡‡‡
「ぎゃあっ!!」
転んだ。何度目だろうか、数えるのも億劫だ。ただ、必死で逃げていたからか今回は頻度が減っている。
顔面を壁に強打し、○○は呻いた。顔を押さえてえっとなった。
……どろり。
どろり?
あれ? 何この温かくてぬるっとするの。
額を指で辿り、凹(へこ)んだ場所に固まる。触ると非常に痛い。
も、もしかして今ので?
「……怪我したこと無かったのに!!」
「そこなのか?」
「そこよ! 今まで上手く転べていたのがこんな、こんな……唯一誇れる無傷伝説が!」
――――って、ちょっと待て。
今、私は誰と話しているの?
ひやりと背筋が冷えた。
どうしよう、振り返るのが怖い。凄く怖い。
それでも振り返らない訳にはいかなくて。
○○はぎぎぎと首を巡らせ、後ろを振り返った。そして、視線を上に……。
咽から短く小さな悲鳴が出てしまった。
「ち、ちちち趙雲、さん……!」
さあっと青ざめて○○は立ち上がると、壁にばんっと背中を張り付けて冷や汗を流す。
「あ、あの! な、何でいつも私はあなたに追いかけられているんでしょうか!」
「俺がお前に一目惚れしたからだと、前にも言った筈だ。それよりも、その額の傷は今ので?」
趙雲が手を伸ばす。
○○はびくっと身体を強ばらせて目を堅く瞑った。
○○は小さな頃から男が少しだけ苦手だった。それは夏侯惇達が男を近付けさせなかったことに起因しているし、彼女自身夏侯惇とは正反対で臆病な性格をしているのだ。
あからさまの拒絶ように、趙雲は苦笑を禁じ得ない。
そっと傷口に触れた彼は更に顔を近付けた。
それを気配で感じ取った○○は一層身を堅くする。
直後、
「ひぃ!?」
ざらりとした物が、傷をなぞった。
痛みよりも何よりもその感触と、離れた瞬間のひんやりとした温度に目を開けて呆けたように固まった。
今、何、された?
ざらってした。
何か濡れてる。
今のは、何だ……?
放心状態の○○に気付きながら趙雲は傷から血がまだ滲んでいるのに思案する。指圧で止めてみようと試みるが、深い所為かなかなか止まってくれない。
「清潔な布は、持ち合わせていないしな……。これから軍医にでも診てもらうか?」
「……はっ!」
問われて○○ははっと我に返った。真っ赤な顔で奇声を上げて趙雲を押し飛ばすと、ただちに逃げ出した。
が、転びかけたのを趙雲が半ば反射的に腕を掴んで引き寄せる。
「う、わぁ!」
「まだ血が止まっていないだろう」
「は、はな……!」
刹那である。
趙雲の首筋に剣が這わされた。
「○○から離れろ」
地を這うが如き低い声で以(もっ)て、彼――――夏侯惇は趙雲を脅す。夏侯淵もその後ろに立って、今にも趙雲に斬りかからん程の勢いである。
趙雲は苦笑を浮かべた。
「そんなに殺気立たなくても良いだろうに」
「○○に近付かなければ良い話だ」
「残念だが、それは出来ない相談だな」
「わっ」
○○の身体を抱き寄せた。
○○の顔はまるで真っ赤な牡丹のよう。本来の白い肌が色づいて、今にも湯気が立ち上ってしまいそうだ。
その表情が、夏侯惇と夏侯淵の神経を逆撫でした。
「……っこのぉ……!」
「……○○」
「ひゃい!?」
ああ、また変な声が出た!
○○は口を押さえて趙雲を見上げた。
すると、彼は爽やかな笑みを浮かべて――――。
「逃げよう」
「へ!?」
言うや否や、彼は○○の腰から手を離し、彼女の手をがっちりと掴んだ。駆け出す。
○○が走れるぎりぎりの速度で夏侯惇達から逃げ出した。
「っ、待て趙雲!!」
双子の弟が怒鳴るのに、○○は心の中で謝罪する。彼女が悪いのではないのだが、どうしてか趙雲よりも彼女が罪悪感を感じているようだった。
○○は走りながら、頬に手を添える。まだ、熱い。
どうしてだろうか。
彼と走っていると、全然、転ばない――――。
○●○
ハルカ様リクエストです。
夢主は夏侯惇とは違って間が抜けた性格にしました。夏侯惇も夏侯淵も、小さな頃から何かと危なっかしい夢主を心配してます。ちなみに親以上に過保護という裏設定もあります。
ギャグな感じにしてますが、本人達は結構真剣です。
こんにちは、ハルカ様。
この度は参加して下さってありがとうございます。
如何だったでしょうか?
参加して良かったと、ハルカ様にご満足いただければとても幸いに思います(^-^)
本当にありがとうございました。
なお、お持ち帰りはハルカ様のみとなります。
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