凜様



†リクエスト内容
 劉備。
 狂愛。




 何も見えない。
 寒い。
 右手が痺れて、上手く動かせない。
 何故こうなってしまったのか、分からない。

 ただ、劉備を止めようと猫族の皆と、曹操の軍に加わって劉備に従う兵士達との戦に出ていただけだ。
 それなのに、不意に誰かに背後から側頭部を殴打されて昏倒し、目覚めたら視界を塞がれ、何かに繋がれたような感覚と肌を突き刺す寒さに胸が震えた。
 どうして、私は、こんな場所にいる。

 じゃらり。
 これは鎖の音か。
 ここは、何処なんだ。

 と、鉄が軋むような音がして、○○は顔を上げた。しかし、見えない。

 かつかつと足音がし、誰かの笑声が鼓膜を震わせる。


「ようやっと、捕まえた」

「え……」


 この、声は。
 低いけれど、確かに聞き覚えのあるもので。
 ○○は愕然とした。

 何で。
 どうして。


「劉備、様……?」

「ああ、僕だよ。○○」


 そっと頬に当たるそれにびくりと震える。
 恐らく手であろうそれから香る鉄の臭い。胸に怯えが走った。息をも震わせた。

 狂った劉備。
 かつての純粋だった劉備の面影は無いだろう。視界が真っ黒で、彼の顔を見ることは叶わない。
 視界を塞がれたのは、何故だ。


「劉備様、こ、こは……」

「僕の城だよ。兵士に命じて、連れてこさせたんだ。でも乱暴にされてしまったんだね。右手が動かなくなってしまったみたいだ。ごめんね、ちゃんと、兵士は殺しておいたから」

「そ、そんなことで殺した、んですか?」


 右手と命では全然違う。
 ○○の利き手は左だ。右手が動かなくなったくらいで、連れてきた兵士を殺してしまうなんて。
 劉備はそれに気分を害したようだ。○○の頬にくっと爪を立てた。


「そんなことじゃない。君は僕の大事な女性(ひと)なんだ。主人の大事な存在を丁重に扱うのは、奴隷として当然だろう。主の命令を満足に果たせない奴隷なんて殺して当然だ。むしろ、僕の手で制裁を与えてもらったことに感謝して欲しいくらいだ」


 残虐極まる劉備に、○○は目頭が熱くなった。
 違う。
 違う。
 この人は劉備様じゃない。
 私の知る劉備様はそんなことしない。出来る筈がない。

 この人は誰――――。


「○○? どうかした?」

「あ、なた、は」

「?」

「あなたは、誰……なの?」


 あなたは私の劉備様じゃない。
 本当の劉備様は、何処にいるの?


 直後、○○の首に衝撃が走った。



‡‡‡




「ぁ……が、あ゛……っ!?」


 苦しい。
 苦しい!
 ○○は喘いだ。

 咽を容赦なく圧迫され、息も出来ない。それに、痛い。


「な、ん……っ」

「僕は劉備だよ。君をずっと愛していた劉備だ。君も、僕を愛してくれていたじゃないか。どうして分からないんだい?」

「ぐ……!」

「――――ああ、これか。視界を塞いでいるから分からないんだね。今、取ってあげる」


 乱暴に、目隠しを外される。その際彼の爪が肉を抉った。
 同時に首が解放され○○は激しく咳き込んだ。

 劉備は彼女の頭を掴んで無理矢理上げさせた。ぶちぶちと髪の毛が抜けた。


「見ろ」

「あ……」


 金の瞳とぶつかる。
 嗚呼、嗚呼。



 やっぱり、違うじゃない。



 はっきりと彼女はそう思った。同時に、安堵した。
 これは私の愛した劉備ではない。この人はもっと別の、狂った男だ。こんな人、劉備であろう筈もない。嗚呼、良かった。きっと私の知っている劉備は別にいるんだ。何処かに幽閉されているに違いない。

 精神が弱っていたのかもしれない。
 脳に殴られた損傷があったのかもしれない。
 今の彼女は、まともな思考が働いていなかった。

 弱りきった頭が逃避するのも、無理もない。


「○○……どうして、そんなに笑うんだい」

「だって、あなたは劉備様じゃないもの。本物の劉備様は、別の場所に捕らえられているのね。良かった……本当に良かった」


 劉備は――――否、目の前の男は目を細める。その金に怒りが、憎悪が満ちていく。
 また、彼の手が○○の手に伸びた。


「どうして――――どうして分かってくれないんだ!!」


 僕は劉備だ!
 彼は叫ぶ。

 しかし、○○は否定する。だって、彼女の知る劉備はこんなことをしない。絶対に出来ない。
 こんな残酷な男が私の愛した劉備様だなんて、有り得ないのだ。
 強く否定して誰何(すいか)を重ねると、劉備は○○の首を絞めた。



‡‡‡




 ……殺してやりたいと、思った。
 彼女なら分かってくれると思っていたのに、ものの見事に裏切られてしまった。
 どうして分かってくれない? 分かって欲しいのに。
 どうしてそんなに強く拒絶する? ○○にだけは、受け入れて欲しかったのに。

 どうして、どうして、どうして。


「……所詮、君は僕を愛してはいなかったんだ」

「……ぁ、」

「僕だけが君を愛していただけなんだ。君は僕を見てくれはしなかったんだ」


 涙がこぼれていく。
 それは○○の頬に落ち、伝う。

 しかし、○○の目は、徐々に光を失っていく。


「……さようなら、愛しい人」


 その目が閉じられた瞬間、劉備は酷く憔悴しきった笑顔でそう呟いた。

 彼女の目が開かれることは、二度と無い――――。



●○●

 凜様リクエストです。

 受け入れられなかったパターンです。この場合は関羽のポジションに夢主がいますね。
 夢主は劉備が好きすぎて、むしろ正反対の残酷な劉備を拒んでしまったのでした。

 凛様、募集時にはご迷惑をお掛け致しまして、大変申し訳ありませんでした。
 この度は企画参加ありがとうございます。

 お気に召していただこたら幸いに思います。
 本当にありがとうございました。

 お持ち帰りは凜様のみとなります。



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