暁様





†リクエスト内容
 趙雲。
 関羽双子夢主。
 切甘。
 詳しい設定は文字数の関係により省略しています。




 ○○と関羽は似ていない。双子であるが、身長も顔つきも何もかもが似ていない。

 明るく真っ直ぐで裁縫以外をそつなくこなす関羽と違い、○○は自信も無ければ何をするにもとんと不器用だった。
 それは猫族の間でも有名で、何かと傷の多い彼女に過保護な傾向にあった。……もっとも、○○を目に入れても痛くないくらいに溺愛している関羽程ではないのだが。
 一応の戦力でもあった○○も、戦では安全な場所から動かせてもらえなかったし、怪我でもすれば大騒ぎだ。○○自身はいつも申し訳なく思っていた。


「○○! ちょ、や、火傷!」

「え? あ、ああ、大丈夫よ。ちょっとお鍋に当たったくらいだから……」

「駄目! ご飯を作るのは私がやるから、○○は指を冷やして来なさい」


 まるで母親のような姉である。
 双子なんだけどなぁと苦笑をしながら、○○は関羽に急かされて井戸の方へ向かった。

 と、家を出ようとした瞬間誰かが飛び込んできてぶつかってしまう。
 ○○は踏ん張れずに後ろに倒れた。
 それをすかさず相手が手を伸ばして抱き留める。堅い胸板に強く顔をぶつけた。だが、直後に鼻腔に入り込んできた馴染みある匂いに心臓が一瞬だけ止まった。


「すまない、大丈夫か?」

「あ、え、その……」

「○○! 大丈夫!?」


 騒いでもいないのに関羽が察して駆けつけてきた。血相を変えて○○を趙雲から引き剥がして肩を掴む。その身体に怪我も汚れも無いことを確認して、長い吐息を漏らした。


「良かったぁ……!」

「すまない、関羽。俺も少し慌てていた」

「ううん、○○に怪我も無いみたいだから良いわ。でも、あなたが慌てるなんて珍しいわね、趙雲」


 彼――――趙雲は苦笑混じりに頷いた。


「ああ、どうしても関羽に相談したいことがあってな」


 ああ、まただ。
 ○○は視線を地面に落とした。

 蒼野に住むようになってから、趙雲は関羽を良く訪ねるようになった。いつもいつも何かしらを相談しに。
 でも多分、関羽に会いたいからだ。相談は口実。

 だって。


「すまないが、○○は、席を外してもらえないか?」

「……はい」


 大体、二人は二人きりを望む。
 ○○も何度目かになるので、聞き分けが良くなった。

 ただ、酷く胸が痛む。

 好きな人が、大事な姉に好意を寄せているのに、何も感じない筈がない。何度も何度もそれを目の当たりにして耐えられる筈もない。
 ○○は泣きそうに歪んだ顔を俯いて隠し、小走りに家を出ていった。

 本当に、そろそろ限界なんだけどなぁ。
 彼女の呟きなど、誰の耳にも届かない。



‡‡‡




「お、○○じゃん」

「張飛。……どうしたの、その顔」


 趙雲が帰るまで、村をぶらついて時間を潰していようと歩いていると、顔に大きな痣を作った張飛と会った。

 痣の理由を問えば、鍛練中に作ったものだそうだ。……相手は世平おじさんかな。
 ○○は苦笑混じりに張飛の手を引いた。


「取り敢えず冷やした方が良いわね。井戸の方に行きましょう」

「お、おう……悪ぃ。何か、することあったんだろ?」

「ううん。無いわ。今は趙雲が関羽のところにいるから、私は邪魔をしないように家を出ているの」


 「邪魔?」張飛が首を傾ける。
 ○○は苦笑して趙雲が関羽に好意を寄せていることを伝えた。

 が、すぐに後悔した。
 関羽のことが大好きな張飛のことだ、趙雲に怒ってしまうに違いない。
 そう思って、あくまで自分の推測でしかないことを付け加えた。

 しかしどうしたことか、張飛は不思議そうに腕組みするのだ。


「張飛?」

「趙雲が、姉貴を……? いや、アイツって確か……」


 そこで、はっと口を噤む。

 今度は○○が首を傾けた。


「張飛、どうかしたの?」

「い、いやいやいや! やっぱ何でもねぇわ。それよか手当手伝ってくんね? 顔だけじゃなくて腕もやられててさぁ! ほら、ここ」

「え? う、うん……分かったわ。じゃあ、井戸に行きましょう」

「おう!」


 何なのかしら……?
 ○○はさっさと歩き出す張飛の後ろ姿を胡乱げに見、後を追いかけた。

 井戸は村の中には一つしか無い。河も近くにあるので、河と井戸の両方で水を得ているのだ。
 ○○は近くの家から手拭いを何枚か拝借して、張飛が汲んだ水に浸す。絞って張飛の腕や顔にぴたりと張り付けた。


「近くで薬を貰ってこようかしら……」

「いや、この程度じゃそこまではいかねぇだろー……いってて! んな、押さえんなって!」

「あ、ごめん。でもやっぱり痛いんなら薬を使った方が良いわ。張飛、いつも完全に治さないでしょう?」


 ○○は頬の手拭いを押さえつつ、張飛の手を取ってそこに当てた。


「ちゃんと押さえていてね。すぐに戻るか、ら――――」

「○○!」

「あ、趙雲」


 張飛の言葉にぎょっとする。
 張飛の手を掴んで彼の頬に押し当てたまま、○○は首を巡らせる。

 何処か慌てた風情の趙雲が、小走りにこちらに走ってきていた。


「ち、趙雲さん……」

「すまない○○。少し良いか?」

「え? あ、でも張飛が……あ!」


 強引に手を引かれ、立ち上がる。
 それから無理矢理その場を離れた。

 張飛を振り返ると、彼は苦笑して頬を押さえていた。



‡‡‡




 趙雲は家屋と家屋の間に羅音を連れ込むと、彼女の身体を壁に押し付けた。

 ○○は身体に痛みを覚えて片目を眇める。


「あ、あの、張飛の怪我が……!」

「お前は張飛が、好きなのか?」

「!」


 いつになく低い声に怯んだ。
 え……どうして怒ってるの、趙雲さん……?
 混乱して、言葉を発せないでいると、趙雲が舌打ちする。彼らしくない。いつもの彼はこんなに荒くはなかった。

 どうして、怒っているのだろう。
 分からなくて、怖くて怖くて視界が滲む。

 それでも、何かを言わなければならない気がして、必死に口を動かした。


「わ、私が誰を好きになったって、……趙雲さんには、関係ないと、思うのだけど……」


 趙雲は関羽が好き。確かに○○は趙雲が好きだが、関係ないことだ。趙雲が関羽を好きになっただけのことで、ただ趙雲を好きなだけの○○に口出しする権利も資格も無い。
 逆もそう。

 本当は、趙雲が好きなのだと言いたい。
 けども関羽は○○の大切な唯一無二の血縁者。いつも迷惑をかけているから、その分幸せになってもらいたい。だから、思いを告げることなんて出来ない。

 ○○は気付かない。
 彼女の発言が、趙雲の怒りを煽っていることに、全く気付いていない。

 突如として顔の脇に趙雲の拳が叩きつけられる。小さな悲鳴が漏れた。


「え、あ……?」


 怖い!
 ○○は身体を震わせた。


「……関係なくなど、ない。俺は……!」

「……っ」


 唐突に、趙雲は○○の顎を掴んで僅かに上げさせた。
 そして……。


「や……!」


 近付いて、くる……!
 恐怖が勝った。

 彼女は咄嗟に趙雲の顔に平手打ちをした。
 乾いた音の後、離れた彼を押し退けて必死の体で逃げ出す。

 後ろで狼狽した趙雲の声がしたが、○○は振り返ることもしなかった。



‡‡‡




「趙雲」


 肩を落とし後悔に苛まれる彼に、後ろから関羽が近付く。
 呆れた風情の彼女は、何故か手に偃月刀を持っている。鍛練に行くのだろうか?


「わたしに相談し過ぎだわ。張飛が、勘違いしてるみたいだって」

「勘違い?」

「趙雲の好きな人がわたしだって、○○は思い込んでるみたいなの」


 趙雲は瞠目した。
 関羽を見、目をしばたかせる。


「ほ……本当なのか?」

「だから言ったでしょう? わたしに相談せずに積極的に行けば良いじゃないって」


 ちゃき、と。
 関羽は偃月刀を握り直す。

 その苦笑めいた微笑みに剣呑なモノを感じるのは、果たして気の所為だろうか。
 趙雲は一歩、彼女から距離を取った。

――――かつて、世平が言っていた。関羽は○○を溺愛している。彼女が関われば、人が変わってしまう程に。

 それを今、身を持って理解した。

 一瞬である。
 彼女は趙雲に肉迫し、彼の喉仏に偃月刀の切っ先を当てた。


「わたしにも責任があるからこの辺で済ませてあげるけど、また○○を怖がらせたりしたら、覚悟していてね」

「あ、ああ……」


 関羽の笑顔に、背筋が凍り付く。



‡‡‡




 ○○は近くの森で泣いていた。
 本当に怖かった。どうして彼があんな風になったのか、全く分からない。
 私は何もしていないし、悪いことを言った記憶も無い。
 だのに――――。


「○○!!」

「!」


 聞こえた声に○○は慌てて走り出す。
 だが、反応が遅かった為、容易く追いつかれて腕を捕まれてしまった。


「ひ……っ」

「待ってくれ!」


 手を振り払って逃げようとする○○を趙雲は抱き寄せて拘束する。
 ○○は呼吸を一瞬止めた。


「なっ、何……」

「好きだ」

「は!?」


 驚く彼女に構わず、趙雲は「好きだ」を繰り返す。彼女が逃げてしまわないように、強く強く抱き締めた。

 まるで洗脳するかのように何度も何度も囁かれる○○は火を噴く思いで抵抗を始める。それでもびくともしない趙雲の腕。


「ちょっ、な、何を……」

「俺が愛しているのは、○○なんだ」


 ○○の動きが止まる。彼女のかんばせが、更に更に赤く染まっていった。


「な、そんな、嘘……」

「嘘じゃない。関羽に相談ばかりして変な勘違いをさせてしまった」


 勘違い?
 そんな筈がない。
 そんな……趙雲さんが私を?
 信じられる訳がないじゃないか。

 でも、でも。
 じゃあ、どうして彼はあんなことをした?
 さっき、路地裏で、口付けされようとした。
 好きじゃないなら、どうしてあんなことをした?

 ああ、分からない。
 分からなくて、思考を放棄してしまいそうだ。


「すまない。張飛に嫉妬する前に、お前に本気で向き合っていれば良かったんだ」

「そ、んなこと、言われたって……」


 困る。
 もう本当に訳が分からない。
 どうしたら良いのか分からない。


「好きだ、○○」

「あ……」


 頬に唇を当てる趙雲に、混乱した頭は爆発したように赤く染まって、思考を完全に放棄する。
 抵抗すべきなのか、受け入れるべきなのか。

 もう、分からない。

 唇に当たる湿った吐息に、身体を犯す熱に、総身が震えた――――。



●○●

 暁様リクエストです。

 ちなみに趙雲が慌てて関羽に相談しに来たのは、髪飾りを買おうとして夢主の好みが分からずに飛び込んでのでした。

 暁様、この度は企画にご参加くださいましてありがとうございました。
 リクエストはちゃんと間に合ってますよ(^-^)
 気に入っていただけたらと思います。

 本当にありがとうございました。

 お持ち帰りは暁様のみとなります。



.