リオ様





†リクエスト内容
 他の兵士の指導が忙しくて拗ねてしまった&嫉妬してしまった曹操。
 甘。




 ○○にはやるべきことが山程ある。
 武官である彼女は、夏侯惇や夏侯淵と一緒に兵士の指導に当たらなくてはならない。曹操軍兵士の数は膨大だ。それに加えて十三支――――ではなく、猫族も加わったとするなら、編成などもがらりと変わり、統制にも調整が必要になった。

 その為、多忙の日々は続き、上司でありながら一応の許嫁である曹操との会話はめっきり減ってしまっていた。

 それを寂しいと思う暇すら、今は無い。


「そこ! もっと大きく振って!! やる気が無いんだったら帰れ!」

「す、すいません!!」


 ○○の高い声は良く通る。掛け声響く鍛練場でも、彼女の声は際立って耳に届いた。
 兵士は肩を震わせ、彼女の指導に従った。しかし少し経つとちらりと左の方に視線をやるのだ。そちらには猫族の姿がある。彼らは兵士達とは違い、猫族同士の手合わせを中心に鍛練に参加していた。連携を取る際に備えての鍛練にも、彼らは快く参加してくれる。

 曹操が猫族と人間の混血だと発覚した後、曹操軍の兵士が猫族を蔑むことは、徐々に減っていった。それも彼らの曹操に対する忠義故のことなのだろう。それを思うと、ちょっとだけ誇らしくなる。

 猫族の中にも混血の娘、関羽がいる。
 兵士達は皆、彼女に見とれているのだ。
 彼女の可愛らしいみてくれに似合わぬ剛勇、そして気だての良い性格。偏見を持たなくなった彼らは、段々と彼女に惹かれるようになっていた。
 勿論、夏侯惇と夏侯淵も例外ではない。

 兵士に気を取られていれば、隣が静かになっている。


「おーい、夏侯一族ー」

「……」

「……この好色野郎め」


 地位の低い○○にぼそりと言われても、彼らは反応を示さない。

 これもまた、○○の悩みの種でもある。
 彼らが腑抜けている所為で、○○も、彼女同様若干地位の低い武官も彼らの受け持つ舞台の指導もしなければならないのだ。
 春はまだまだ先だ、色ボケするなら季節を考えろ!
 なんて、怒鳴りたくても地位が彼らより低いので恐れ多くて出来ない。

 私だって曹操様と会いたいってのに!
 こいつらは毎日鍛練で会えるけど、私ゃこの二ヶ月姿も見えてないんだからね!?
 ここでこの夏侯一族をぶん殴ったら曹操様に怒られるかな。そしたら会えるよね。
 ……いや、止めとこう。自分はまだ理性あるから。うん。大丈夫。私まだ理性大丈夫。
 ○○は危ない方向に傾きかけた思考を元に戻し、また怒鳴り声を上げた。当然、兵士にだ。

 すると、


「○○」

「のぁ!?」


 不意に後ろから視界を隠され、背中に温もりを感じた。
 ○○にこんなことをする人間なんて、たった一人しかいない。

 その名を呼ぼうとした瞬間、周囲がしんと静まり返っていることに気が付いた。多分曹操が来ているからだろうが……それにしてはやけに静かというか、空気が凍り付いていないだろうか。
 ○○は視界を塞がれているので夏侯惇達や兵士達がどんな顔をしているのか知る術が無い。剥がそうとすると、視界を覆ったまま眼球を抉り出されようとした。非常に痛かった。


「そ、曹操様……」

「最近、文官を監視につけていたが……報告通りだな」

「は、え? 何? ちょっ、曹操様前が見えいだだだだ!! ちょっと、目を抉り出そうとしないで下さいってば!」

「お前は黙っていろ」

「すみませんでした!」


 あれ? 曹操様、何か怒ってる?
 ○○は確かめたかったのだが、それを曹操が許さない。頭に疑問符を思い浮かべながら、彼の為すがままに立ち尽くしていた。いつまでこの状態でいれば良いんだろう。


「夏侯惇、夏侯淵」

「は、はい」

「何ですか、曹操様」

「部下の色恋沙汰をとやかく言うつもりはない。だが、惚けて○○や他の武官に自分の隊の指導すら任せきりとは何事だ。お前達ともあろう者が、己より地位の低い武官を馬鹿にしているのか?」

「いえ! そんなことは……申し訳ありません」


 こっそりと、ざまあみろと思った。
 多分彼らは焦っていることだろう。仕事を押し付けられる地位の低い武官の気持ちが分かったかと声高々に言ってやった。心の中で。

 曹操の声がやけに低いのは、それに怒っていたからのようだ。
 すっきりした心持ちで、○○は肩から力を抜いた。

 それが分かったのか曹操が花で一笑した。
 しかし。


「……あの、曹操様」

「何だ」

「この視界を塞ぐ手の圧力はどうしてでしょうか。このままだと私の身体が後ろに倒れてしまうのですが」

「そのまま後ろに歩けば良いだろう」

「意味が全く分かりません! ちょっ、本当に倒れてしまいますって!」


 片足を前に伸ばし、圧力に抗いきれずに倒れた。
 曹操はその瞬間、手を離して彼女の身体を抱き留めた。かと思えば、身体の向きを横に変えて軽々と抱き上げたのだ。


「は!?」


 ○○は普段とは打って変わって野太い声を上げた。
 じたばたと抵抗してみても、曹操は夏侯惇達を一瞥し涼しい顔で鍛練場を出て行ってしまう。○○の抵抗など痛くも痒くもないようだ。

 何度も彼を呼んで下ろして鍛練場に戻してもらうように頼むけれど、全く聞き入れてもらえない。
 結局、人目も憚(はばか)らずに曹操の私室に連れ込まれてしまった。

 これってまさか夜の展開なのでは……!
 寝台に座らされた瞬間○○はさっと青ざめた。


「そ、曹操様……!?」

「そのまま楽にしていろ」

「はいっ!?」


 何かされる!
 彼が耳元で囁くのに、○○はぎゅっと目を瞑った。

 されど、曹操は○○から身を離すのだ。隣に移動し、少し離れた場所に腰掛けるとそのまま○○の方に身体を倒す。
 彼女の膝に頭を載せた。

 俗に言う、膝枕である。


「……は?」


 何だ、これ。
 ○○は顎を落としたまま瞑目した曹操の顔を見下ろす。


「あ、あの……?」

「暫く会っていなかったのだ、許せ」

「いや、むしろどんと来いですけど、今まで膝枕なんてしていませんでしたよね」


 ○○が曹操の私室に来る時は、大体朝まで帰れない場合ばかりだ。膝枕なんてしたことが無い。
 当惑する○○の腰をさらりと撫で、曹操は薄く目を開く。


「お前は、混血である私を厭わぬのだな」

「え、どうして? 私は曹操様の許嫁じゃないですか。地位の低い家なのに、私を武官として迎え入れてくれたばかりか、こうして許嫁としてお傍においていただいています。感謝こそすれ、厭うなどと……」


 一瞬、曹操は遠い目をする。


「……そうだったな。だが今はお前を武官にしたことを後悔している」

「どうしてです?」

「お前は気が利きすぎる。それに、私以上に他の者達が甘えている状況が気に食わぬ」


 ○○は一瞬きょとんと首を傾ける。しかし何かに気付いたように顔を上げると、少しだけ嬉しそうな笑顔で曹操を見下ろした。


「もしかしてヤキモチですか? 珍しいですね」


――――ぴき。
 曹操の顔が強ばった。

 何とはなしに言っただけの○○はえっとなって、のっそりと起き上がる曹操を不思議そうに見上げた。

 彼は無言で○○の身体を押し倒した。


「……あれ?」


 さっと青ざめた。


「そ、曹操様? 何か展開がお約束というか……あれ? 膝枕で終わるのでは……?」

「気が変わった。朝まで啼(な)いてもらう」


 曹操の口角がくっとつり上がったのに、○○はひきつった悲鳴を上げた。



○●○

 リオ様リクエストです。

 元気の良い夢主にしたくてあんな感じになったんですが、ギャグ率高いですね。
 ちなみに裏設定では、夢主が夏侯惇達に隠れて愚痴を言いつつ壁を殴っていたところを曹操が見ていたのが始まりです。それからまあ面白半分で観察していたらいつの間にか曹操が彼女を好きになっていたと言う……。

 リオ様、この度はリクエストありがとうごさいました。
 お気に召していただければよろしいのですが……(^_^;)

 拍手でのコメントも含め、本当にありがとうございました。

 お持ち帰りはリオ様のみになります。



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