柚莉様
†リクエスト内容
劉備。
曹操×関羽。
兄(曹操)に監禁され、兄と関羽を憎悪する混血夢主。
大人劉備に溺愛される。 私の世界は暗い牢獄だった。日の光もほとんど届かないような場所で、物心付いた頃から年の離れた兄に閉じ込められ、視力は酷く低下してしまった。
何故私が牢獄に入れられたのか。罪を犯したのではない。そもそも物心付いた幼女に何が出来るというのか。
ただ、私は生きていただけだ。
人間と十三支の混血だっただけだ。
それだけで、兄は私をここに閉じ込めた。
嗚呼、憎い。
憎い憎い憎い憎い。
この長い時で積み重ねられた憎悪はもう抑えようが無く。
兄が混血の女を嫁に迎えて、ずっと放置されていた私はようやっと外の世界に出された。
そう。兄が私以外に混血を見つけたから、私を閉じ込めておく理由が無くなったのだ。
光の下に出された私は、ぼんやりとした世界で何をすれば良いのだろうか。
目が見えないって、本当に不便だ。誰が誰だか分からないから。
それに、兄の部下達も私をずっと見たことが無いのだから、いきなり主の妹だと言ったって戸惑うに決まっている。
視界が悪くて何をするにも四苦八苦していても、誰も助けてはくれない。
私は、これからどうしたら良い?
兄に何度問いかけただろう。
けれど兄はもう私を見なかった。混血の女――――関羽ばかりに夢中になって、私にした仕打ちなど忘れてしまったかのようだ。
あの人って、馬鹿よね。
そうされたら、憎悪がもっと膨れ上がるって、もっとムカつくんだって分からないのかしら。
私の幸せも視力も奪ったくせに、何のうのうと幸せを噛みしめているの?
あなたにそれが許されるとでも思っているの。
嗚呼、憎たらしい。
殺してやりたい。
関羽共々殺してやれば、兄も十分でしょう?
私から奪っておいて、あなたばかりが恵まれるなんて、許さない。
誰も彼を責めないのなら、私が天罰を下してやらなくちゃね。
私の歪んだ感情は、誰にも止められないんだろう。
私にだって止められないんだもの。
自分に制御出来ないものを、他人に制御出来る訳がない。
‡‡‡
「劉備さん、そこを退いていただけませんか?」
「駄目だよ。退いてしまえば、○○は二人を殺してしまうだろう」
私は兄と関羽を殺したい。
その為に視力が悪いなりにあの二人を正確に見分けられるように頑張ってきたし、あの二人を正確に殺せるように強い毒の配合も考えてきた。
だのに、私はいつも二人に近付けないでいる。
いつもいつも、邪魔をする男がいるんだ。
劉備。
十三支の長。
私によく接触してくる彼も何とか見分けられる私は、ぐにゃりと顔を歪ませて彼の顔を睨んだ。目が合わないのは仕方がない。
「邪魔をしないで。私は兄に天罰を下さなくちゃいけないの」
劉備さんを避けて行こうとするけれど、彼は私の腕を掴んで近くの部屋に連れ込んだ。
「ちょ……っ!」
どうしてこうも彼は私の邪魔をするんだろうか。
私は彼を、関羽共々殺さなくてはいけないんだ。
邪魔をしないでよ。
私が劉備さんを睨みつけると、肩に手を置かれて諭された。
「今、関羽は幸せなんだ。どうか、壊さないでほしい」
「そんなの勝手じゃない。私はずっと暗い場所から出られなくて、ほとんど何も見えないのよ。私は不幸なのに、私を不幸にした兄とその女は幸せになって良いというの? 私は不幸になるべき存在なの? そんなの許さない。私はあの人達を殺すの。絶対に、絶対に殺してやるんだから……」
劉備さんは溜息をついた。
構わずに私は部屋を出ていこうと彼から離れ、扉に手を伸ばす――――。
その手を捕まれた。
短刀も奪われてからんと床に落ちてしまう。
引き寄せられて身体を反転させられる。
暴れようとしたけれど遅く。
私の身体は劉備さんの腕の中にすっぽりと収まってしまった。
私は驚いて一瞬だけ息が詰まる。
手足をばたつかせて逃れようするけれど、劉備さんの腕は存外力強く、拘束を振り解けない。
「はっ、放して……!」
「これから幸せになれば良いじゃないか」
「何を言って、」
動きを止めた隙に顎を掴まれ、引き上げられる。
直後、急速に近付いてくる彼の顔に、避ける間も無かった。
唇に当たる、熱く湿った吐息――――柔らかな物。
口付けされていると分かったのは、それからだいぶ時間がかかってからだった。
分かった途端に全身が熱くなって私はまた暴れ出した。けれど腰を抱く腕は更に強まり、少し苦しいくらいに押さえ込まれてしまう。
一度離れても、またすぐに重ねてくる。
何で、自分はこんなことされてるんだ。
私はこの人とはそんな関係じゃない。だって出会ってそんなに時間は経っていない。ただ兄とその女を殺すのを邪魔してくるだけ。
私はこの人のこと、好きでも何でもないのに。
「んん、っは……んっ」
「○○……僕じゃ、駄目かな」
「な、何……ん!」
何度も口を塞がれて反論も拒絶も呑み込まれてしまった。
私は劉備さんの肩を掴んで押し退けようと力を込める。けれど、びくともしなかった。
何回すれば気が済むのか、息苦しくなる程に何度も何度もしつこく口付けをしてくる。
鼻では足りなくなって空気を求めて口を開けば、劉備さんはまた口付けてきた。隙間からざらざらした物が入ってくる。
「ふぁ……っん」
「は……っ」
ざらざらした物――――劉備さんの舌が私のそれを絡め取る。
本当に、どうして私は好きでもない男とこんなことをしているんだ。
兄を殺そうと思っていたのに、関羽を殺そうと思っていたのに。
こんな、ことを……。
意志に反して思考がとろけていく。
ただでさえ見えない視界が、涙で更にぼやけていく。真っ黒なだけで何も見えない。
「ぁ……」
ようやく離され、もう合わさる様子が無くなると、私の身体は緊張の糸が解けたみたいにぐたりとその場にくずおれようとして、劉備さんに抱き締められた。
「○○が曹操を見る度にとても辛そうな顔をするのが嫌なんだ。君には笑っていて欲しい。今までが幸せじゃなかったなら、僕が二人以上に幸せにしてあげるから。だから、殺そうなんてしては駄目だ」
何も知らないくせに。
何も知らないくせに!
私を幸せにするなんて、そんなふざけた言葉。信じられる訳がないじゃない。
それに私はもう幸せになりたいなんて思っていない。今私の中にあるのは兄とその女に対する憎悪だけだ。
幸せなんて要らない。
私はあいつらを殺せればそれで良いの。
だのに。
「○○」
……嫌だ。
そんな声で囁かないでよ。
どうしてそんなに泣きそうな声をしているのよ。
「あ、なたは……関係ないじゃない」
どうして、どうして。
私の問いに答えるように、彼は私の頭をそっと撫でるのだ。
「好きなんだ。だから、君が辛い顔をしているのを見ていられない」
……嫌だ。
信じられない。
会ってそんな時間が経った訳でもないのに。
それに、それに。
私の目は劉備さんの顔をはっきりと見ることが出来ないのだ。
顔の分からない相手なのに。
「○○」
劉備さんが私の頬を包み込む。また、近付いてくる。
そんなんじゃない。
そんなんじゃないんだ。
これは、ただ……ただ。
身体が弛緩して動かないだけなんだ。
●○●
柚莉様リクエストです。
曹操に同胞として監禁されていた妹、ということでした。
憎悪してても何処か寂しいところがあり、それを劉備はちゃんと見ていた、と。それを見ているうちに、深く愛するようになっています。
ただ夢主は兄と関羽を殺すことしか考えていないのでまだ一方通行。ここでは彼には強引に出てもらってます。
これを機に意識し出せば良いと思います。そして兄以上に幸せにしてもらえば良いと思います。
柚莉様、この度はありがとうございました。
初めてでありながら、企画に参加に加え、そのような言葉をいただけて大変嬉しく思います。
拙い作品ではございますが、少しでも柚莉様のご期待に添えていれば幸いです。
本当に、本当にありがとうございました。
お持ち帰りは柚莉様のみとなります。
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