癒羽様





†リクエスト内容
 袁紹。
 部下夢主。
 甘。




 私は袁紹様のもの。

 使えるべき主君は彼だけ。
 身も心も捧げるべき男も彼だけ。
 私は彼の為だけに存在しているのだ。


「○○」

「はい、袁紹様」


 董卓討伐から帰ってきた袁紹様は、私を私室に招いて抱き寄せた。
 私は彼の身体に身を寄せ、胸に顔を寄せる。

 そのまま、寝台に押し倒された。

 久し振りの袁紹様の温もりに酷く安堵した。
 私は袁紹様の部下であり、袁紹様だけの女。そう言う風に《教育》されている。勿論袁紹様から。
 彼と身体を合わせているだけで、どっと押し寄せる安堵。

 袁紹様は意地悪だ。
 武官でもある私を反董卓連合軍に入れなかったのは、私を焦らしたかっただけだ。焦らせば焦らす程、私が貪欲に袁紹様を欲することをよく分かっているから。

 試されているって、分かっている。
 どれだけ私が袁紹様に依存しているか、どれだけ袁紹様を愛しているか。
 彼はこうやって確かめるんだ。


「何か、楽しいことでもございましたか?」

「どうしてそう思う?」

「私を見ずに笑ってらっしゃいますから」


 嫌だ。
 嫌だ。
 私は袁紹様のものでしょう?
 袁紹様は私のものではないけれど、私以外を見て笑わないで。
 私以外に心惹かれる人間がいるんじゃないかって、不安になってしまうの。


「楽しい……とはまた違うな」

「では、どうしてそのようなお顔をなさるのです?」

「十三支がいたのさ。あの曹操が引き連れていた」


 十三支……ああ、あの化け猫。
 曹操が連れていたなんて、驚きだ。


「華雄を討ったのはその十三支……しかも女だ」

「十三支の……女」


 私は目を細めた。
 胸の中を真っ黒くてどろどろしたものが渦巻いた。気持ち悪い。


「本当、汚らわしいよ……化け物のくせに」

「うあ……っ」


 苛立たしげな言葉と共に肩を力一杯握られた。みしみしと骨が軋み、涙が滲む。


「い、痛……」

「……ああ、すまなかった。君はあの十三支の女とは全然違う。僕だけの可愛い女だ」

「え、袁紹、様……」


 私以外を見ないで。
 私以外の女なんて、あなたには要らないでしょう?

 私の視界が滲むのは、痛みの所為だけじゃない。

 袁紹様に依存するように育てられた私。でもそれだけじゃなくて。
 袁紹様が私を見なくなったら、私はきっと狂ってしまう。
 それくらいに、私は袁紹様を愛しているの。
 ずっとずっと――――袁紹様も知らない昔から。


「袁紹様、袁紹様……私を見て下さい」

「ああ、見てるじゃないか、○○」


 そろりと頬を撫でられて、私はほうと安堵する。

 袁紹様はそんな私に笑いかけて、目尻からこぼれた涙を舌で舐め取った。
 そんな風に優しく接してもらえるなんて、昔は思いもしなかった。閨(ねや)のお相手なんて、夢のようだった。

 私の家は長年袁家に仕えてきた。袁術様のもとにも私の叔父が仕えている。
 ずっと袁家に寄り添って生きてきた。

 私が袁紹様を初めて見たのは父に付き添われ、兄共々袁紹様の叔父君にして袁術様の父君袁逢様へ謁見した時だ。父が袁逢様に挨拶へ向かってそれを待っている時に、母君と笑いながら歩いているその姿を拝見した。袁紹様の父君袁成様とは生まれて間も無く死別した彼。その彼の寂しさを伴わない無邪気な笑顔に、幼い私は強く惹かれたのだ。

 同時に、年上の袁紹様の黒く汚れた裏の顔も、漠然と感じ取っていた。

 一介の武人に過ぎぬ私が、袁紹様の目に留まって愛でられることになるなんて、今でも不思議だ。


「○○? 考え事とは感心しないな」

「あっ、す、すみません……」


 いつの間にか服を剥がれ、私の身体を袁紹様の熱い舌が首筋を張っていた。
 久し振りの行為に身体が急激に高ぶっているのが分かる。


「嫌なら、もう止めよう」

「嫌っ、や、止めないで下さい……!」


 懇願する私に袁紹様は笑う。満足そうに笑う。
 それを見て安堵する。

 袁紹様が愛撫を再開なされたのに、私は息を震わせて目を閉じ、その甘すぎる感覚に身を任せた。



‡‡‡




 寝台に横たわる女を見下ろし、袁紹は目を和ませた。
 そっと頬を撫でれば、無意識だろうに擦り寄ってくる。


「……それで良い」


 袁紹は口角をつり上げた。

 それで良い。
 そうやって自分に依存していれば良い。
 ○○は自分だけ見ていれば良いのだ。


「○○……君は僕のものだ。あの時から、そう決まっている。これからも、ずっと、永遠に」


 優しい穏やかな声音で昏々と眠る○○に語りかける。

 《あの時》――――○○を初めて見た時だ。
 当時、自分の面倒を見てくれていた叔父に会いに来ていたという幼い○○の純真無垢な姿を見て、彼女は自分と共に在るべきだと直感した。

 そうして○○が武将として仕えてくれるのを待って、彼女を寝所に呼び寄せ自分だけしか見ないように《教育》を施すようになった。

 その結果、○○は自分の望むような女になった。

 ……絶対に、手放すものか。


「○○、僕だけの○○……僕の傍を離れることは絶対に許さない」


 離れる時は、殺してしまおう。
 くつくつと咽の奥で笑いながら○○の寝顔を愛でる袁紹の笑顔は、こと純粋だった。
 言うことは剣呑なのだが、それでも彼の純粋な想いは、○○に一心に注がれている。

 袁紹は○○の無防備な肌に唇を寄せると、強く吸い付いた。


「ん……っ」


 ○○が身動ぎ、瞼が震える。

 袁紹は素早く身体を起こすと○○の顔を手で覆った。


「……まだ寝ていろ」

「は、い……」


 ○○は従順に従い、すぐに寝息を立て始める。

 その様に、また笑みが浮かんでしまう。

 そう、○○は僕のもの。
 それはずっと昔から僕が決めていたこと。
 袁紹は手を伸ばし、○○の髪をそっと梳いた。



○●○

 癒羽様リクエストです。

 甘い甘いと目指していましたが、むしろ妖しい雰囲気になってます。初めて書いたのですが、彼は曹操と同じで無条件で妖しくなる人のようです。

 この二人はお互い一目惚れです。
 ちなみに夢主は彼が自分に一目惚れしたとは夢にも思ってません。

 癒羽様、この度はリクエストありがとうございます。
 色気は足りないかも知れないですが、私めの作品をお楽しみいただければ幸いです。
 お祝いのお言葉や、ありがたいお言葉の数々、本当に嬉しく思います(^-^)

 これからもどうか、よろしくお願い致します。

 お持ち帰りは癒羽様のみとなります。



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