匿名様




†リクエスト内容
 曹操。
 互いに狂っている。




 彼は私の肉を求める。
 そんなことをしたって人間になれやしないのにね。馬鹿な人。
 私の肉はそんなに美味しいのかしら?
 人間の肉って、美味しくないでしょう?
 だけどそれは彼の私に対する愛情の現れ。

 私はこの人のことを何でも知っている。
 彼の出生にまつわる秘密や、彼に流れる血も、彼が父親を殺したその事実も。
 彼のことなら何でも全部、全部知っている。
 彼が他人に知られたくないことも私は全部知っておきたいの。
 だけどそれが私の彼に対する愛情の現れ。

 狂ってる?
 ううん、違う。
 だって私達は愛し合ってるもの。


「……っく、あ゛……」

「○○……」


 ぶちぶちと噛み千切られる皮膚、それについて行く肉と血。
 痛い。でも気持ち良い。
 彼の愛情がとても心地良い。

 愛してるなんて生ぬるいよね。
 好きだなんて薄っぺらいよね。

 血肉を求める程の愛情を、どんな言葉で表現すれば良いだろう。
 彼の愛情は一途だ。とても純粋。
 どんな言葉で表せば良いだろう?


「曹操、さ、ま……」


 彼の頭を抱き込めば鎖骨に噛みつかれた。べり。ああ、また皮を剥がれた。

 彼は私の血肉を食べることで満足する。

 でもね、でもね。
 私はあなたのことを沢山知っているけれど、知らないことがあるの。

 知りたいの。
 凄く知りたいの。


――――彼の内蔵(なかみ)。


 どんな色をしているんだろう。
 どんなに熱いだろう。
 どんな風に脈打っているんだろう。

 嗚呼、知りたい。

 知りたい。

 知りたい。

 知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。知りたい。知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい
りたい知りたい知りたいしりたいしりたいシリタイ。

 狂ってる?
 ううん、違うのよ。
 これは狂ってるんじゃない。

 これが私の愛情の現れなんだ。
 彼に対する深い深い愛情。

 狂ってるんじゃないのよ。

 私は枕の下に隠しておいた短刀を手に取り、私の血を啜って肉を抉ることに夢中になっている愛おしい彼の背中めがけて振り下ろした――――。


「何をしている」


 嗚呼、駄目だった。
 ぎりっと握られた手首。外側に捻られる。


「ぐ、ぁ、あ……!」

「何をしているのかと、訊ねている」

「あ゛、……ははははは、はは、ははははっ!」


 痛い。
 捻られた腕が痛い。
 でも笑いが出てくるの。
 不思議ね。


「○○」

「だって足りないんだもの」


 知っても知っても足りない。
 もっともっと知りたいの。

 私は短刀を持ったままの自分の手首を見上げ、笑い続ける。


「ふふふ、だってあなたは私の肉を食べたら満足するじゃない。でもね、私はそれじゃ足りないの。あなたのこと知りたいの。もっともっと知りたいの。……曹操様の内蔵まで知っておきたいの、ふふっ、ふふふふふふふふはははは……っ!」


 だって愛しているんだもの。
 そこでようやっと笑声は収まる。

 彼は冷たい黒の双眸を細め、無言で私を見下ろしてきた。

 だけど、ふっと口角を弛めるのだ。
 とっても、嬉しそうに。


「……そうか。それが私の出生すら調べ上げたお前の果てか」

「何だ、知ってたの?」

「ああ。お前のことなら何でも知っている」


 知っている。
 でも私は知らない。
 あなたの内蔵は知らない。

 それって狡いんじゃない?


「卑怯だわ、曹操様」

「だが、私も知りたくて仕方がないことがある」


 ねっとりと、彼は私の首筋を舐め上げる。


「○○の内蔵(なかみ)の味」

「……ああ、ああ……」


 何だ、同じなのか。
 私達の行く先は同じなのか。
 また私は笑った。

 笑う。
 嬉しくてただ笑う。


「は、ははは、あっはははははは……!」


 でもね、でもね。
 それだと不都合があるのよ。

 私は彼の中身が見て調べたい。
 彼は私の中身の味を調べたい。

 だったら、どちらかは死ななければならないでしょう?

 死んで彼の全てを知って、彼は私だけのものになる。
 それなら良い。

 でも食べられてしまったら。いつかは排泄されて無くなってしまうでしょう?

 私はあなたの中からいつかいなくなってしまうのなら。
 意味が無いじゃない。
 私は過剰な人肉嗜食(じんにくししょく)は認めない。

 私は短刀を握り直し、彼の腕を逃れる。

 それと彼が私の首に手を伸ばすのは、


 ほぼ同時。



 狂ってなんかないのよ。
 ただ、私達の愛情の行く先が《そこ》だってだけ。

 狂ってなんかないのよ。
 だって、私達は深く深く愛し合っているんだから。


 嗚呼。
 嗚呼。
 この愛情を、どんな言葉で表せば良いんだろうね。



――――暗転。



○●○

 匿名様リクエストです。

 監禁ネタじゃないのは、ちょっと違った狂い方を書いてみようと思ったからです。そうしたらこんな風に。異色な作品に仕上がってます。
 二人の結末は……どうなったのでしょう。

 しかし、名前変換が少ない……。


 匿名様、この度は企画にご参加いただきありがとうございました。

 お持ち帰りは匿名様のみとなります。



.