麗華様





†リクエスト内容
 曹操、夏侯惇、趙雲。
 甘か裏。




――――迫られている。
 ○○は口角をひきつらせ、自身を壁に追いやり身体を密着させてくる曹操を見上げた。
 秀麗すぎるかんばせがあるのに、心臓が爆発しそうだ。この人物の艶めかしい声にすら耳がゾクゾクする。ああ、全身が熱い。


「あ、あの……何でしょうか……」


 自分は確か、関羽に頼まれて曹操や夏侯惇達に菓子を届けにきた筈。
 その菓子は今床に転がっている。関羽が作ったお菓子は美味しいのに!

 曹操は笑みを浮かべ、無言で彼女の首筋に顔を埋めた。滑らかな肌に吸い付く。


「う……っ」


 ○○は堅く目を瞑った。びくびくと猫の耳が震える。

 それに曹操は咽の奥でくつくつと笑った。首筋を舐めると、彼女は小さく声を漏らした。

 曹操が○○に迫るのは今に始まったことではない。十三支と蔑む彼がどうして猫族の自分を異性としての気に入っているのか分からないが、会う度に異様に迫ってくる。
 ……否、これは彼だけではないのだが。

 一応、今までは上手くかわせていた。こんな羽目になったのはこれが初めてだ。かつて無い危機感に冷や汗が流れる。頭の中で鳴り響く警鐘がけたたましかった。

 何とか逃げようと頭を働かせる○○に、曹操はまた肌を舐める。


「私のもとに来い」


 低く艶を含んだ声で囁く。
 顔を上げ、耳をはめば○○は顔を真っ赤にし、


「わ……わあああぁぁぁぁ!!」


 渾身の力で曹操の身体を押し退けると一目散に部屋を飛び出すのだった。途中、何も無いところで転んだ。

 その後ろ姿に、曹操は面白がるように笑声を漏らす。



‡‡‡




 脇目も振らずに回廊を駆け抜けた○○は角で誰かとぶつかってしまう。先程のことで頭が一杯で周囲が見えていなかったのだから当然の結果である。
 勢いの良さに後ろに尻餅を付いてしまった彼女は慌てて相手に謝罪する。

 しかし相手を見上げ、あっと声を漏らした。
 左目を眼帯で覆う彼は、夏侯惇である。○○とは比較的親しい間柄だ。

 倒れることは無かった夏侯惇は○○に気付くと、片眉を上げて吐息を漏らした。手を差し出してくる。

 ありがたくその手を借りて、○○は立ち上がった。お礼を言って衣服を正す。


「ごめんなさい、前を見ていなくて……」

「まったくだ。そんなに急いでどうかしたのか? いつもなら、ここに来たなら鍛錬に参加していく筈だろう」

「いや、ちょっと色々ありまして……今日はこのまま猫族の村に戻ろうかなと」


 はははと取り繕うような笑いで誤魔化せば、夏侯惇は首を傾けて怪訝そうにする。
 ……が、ふと○○の首筋に気が付くと、表情ががらりと変わってしまうのだ。

 ○○は笑うのを止めた。


「か、夏侯惇さん? どうかした?」


 直後である。
 彼は○○の双肩を掴むと壁に押しつけ、鋭い隻眼で彼女を睨みつけた。

 曹操の時と似たような状況に○○はえっと顔を強ばらせた。少々、肩が痛い。


「え、ちょ、」

「……何だこれは」


 左肩を掴んでいた手が離れ、指がとんと首筋の一点に触れる。

 そこ、を意識した○○は途端に蘇った記憶にざっと青ざめた。
 ま、まさか……!

――――残っているのだ。
 曹操に吸い上げられ、鬱血した痕が。
 夏侯惇はそれに気付いたのである。

 ……ヤバい!
 ○○に迫る人物には、彼も含まれている。もっとも、曹操程ではないが。
 夏侯惇の隻眼が細まったのにひい、と小さな悲鳴が漏れたのは仕方がない。今の彼は鷹を思わせるような獰猛な目をしているのだ。
 曹操とは違った意味で――――いや、少しだけ似ている気がするけれど――――危ない臭いがする。


「ちょっ、夏侯惇さん? 私早く村に帰りたいかな〜って……」

「……」

「ひいぃっ!」


 殺気? いや、怒気?
 どちらか判別も付かない重苦しい雰囲気に、収まった筈の冷や汗がどっと噴き出した。
 どうしよう、本当にどうしよう。
 今日は厄日なんじゃないだろうか。何か色んなものが危ない気がする!

 夏侯惇は舌打ちした。
 びくりと震えた○○の首に顔を寄せる――――のを、素早く察知した○○に必死の体で避けられ、肩を掴む左手を払われて逃げられた。


「っ、待て○○!」

「取り敢えずすいませんでしたぁ!!」


 何に対して謝っているのか分からぬ○○は脱兎の如く、瞬く間に小さくなっていく。

 伸ばしかけた手を引っ込め、夏侯惇は歯噛みする。だんっと壁を殴りつける。


「曹操様は良くて、俺では駄目だと言うのか……」


 その声音には、悔しさが滲んでいた。



‡‡‡




「もう嫌……頭が痛くなってきた」


 曹操に襲われるし関羽の菓子は地面に落とされるし、夏侯惇は怖かったし……。
 暫くは村から出ないようにしよう。
 村の中を歩きながら、○○ははあぁと重く溜息をついた。

 すると、背後から彼女に近付く影がある。


「○○? どうした」

「……あ、趙雲さん」


 蒼野にいた頃から何かと猫族の面倒を見てくれていた男が案じるような眼差しを向けてくる。

 ○○は肩から力を抜いた。
 この趙雲もまた曹操達と同様○○に想いを寄せている男性だが、彼ら程強引ではないし、紳士的なので警戒せずに済む。


「いえ、まあ、色々ありまして」

「……まさかとは思うが、曹操達か?」


 途端、○○は遠い目をした。至極分かりやすい反応である。

 趙雲は苦笑し、ふと○○の首筋を見てすっと目を細めた。彼女がこちらに焦点を開わせる直前、元に戻した。


「話でもするか? 少しは気が晴れるかもしれないぞ」

「……うん。お願い」


 ○○は苦笑して、頷いた。

 それに、趙雲は自然を装って肩を抱き寄せ歩き出すのである――――。



●○●

 麗華様リクエストです。

 裏か甘い話ということでしたので甘い話を選ばせていただきました。
 この場合逆ハーレムな感じかなぁと思いながら書いてますが、三者三様な風です。逆ハーレムって、こんな感じで良いんでしょうか……?(・・;)

 夢主はこの時点では三人の好意が分かってますが、自分は誰にも異性としての好意を持っていないのであたふたしつつ交わしつつやってます。誰に傾くかはご想像にお任せします。

 麗華様、この度は企画にご参加いただき、まことにありがとうございました。

 お持ち帰りは麗華様のみとなります。



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