きらら様





†リクエスト内容
 関定。
 夢主は猫族or混血。
 甘。




 さら、さら。

 さら、さら。

 風に髪が踊る。
 ○○は目を閉じてその風に身を委ねた。

 この徐州に来て、良かったのか、そうでないのか。
 彼女には分からない。
 徐州の人達は猫族を受け入れてくれた。劉備を刺史とした。

 けれどそれは、曹操や袁術などと同じような存在になったということだ。
 勿論周囲の人間は徐州を放っておかない。曹操などは徐州を併呑しようとしてくるだろう。
 袁術もまた、世平や糜竺は危ういと言っていた。
 これもまた喜べた状況でない。

――――なんて、戦えない自分が悩んでいても仕方がないのだけれど。
 溜息をついて下邱に戻ろうときびすを返す。

 そこで、下邱の方向から一人こちらにやってくるのが見えた。


「……あ、関定」

「よっ」


 へらりと笑って関定は片手を上げる。


「蘇双から外に行ったって聞いてな。方向音痴の○○が来るならここぐらいだろ?」

「五月蠅いわね。方向音痴ですいませんでした」


 きっと睨めば肩をすくめられる。

 関定は○○の恋人である。
 幼なじみがそのままというありがちな馴れ初めだが、一応まだ続いてはいる。
 関定が女子に対して非常にだらしないという点で、そろそろ怒髪天を突きそうであること以外に大した不満は無かった。


「でもどうしたの? ここまで探しに来るなんて珍しいわね」

「ちょっとな。何か○○が恋しくなって」

「それ昨日も聞いたような気がするんだけど」


 というか、三日に一回は聞いているんじゃなかろうか。
 どうも最近、関定はクサい科白を言うようになった。理由は全く分からない。何か変な食べ物を口にしたことも無いし……。
 人間の女子に何か言われたか?


「関定、何か最近気持ち悪い」


 この際はっきり言っておこうかと思って口にすると、関定は固まった。
 たっぷりの間を置いて、小さな声で問いかける。


「……え、マジで?」

「うん」

「あれ……おかしいな〜……皆は喜んでくれるって言ってたんだけど」

「誰に聞いたの、そんなの」

「徐州の女の子」


 ……一瞬、この少年を殴りたくなった。
 拳を握るとそれに気付いた関定はぎょっと背後に跳び退(ずさ)る。

 ○○は片眉を上げて拳を解く。両手を腰に当てた。


「あのねえ。今更そういうこと言われても困るわ。何年の付き合いだと思ってるのよ」


 普通に付き合うだけじゃ、物足りないのだろうか? 確かに、接吻以上のことはしていないが……。
 ○○はこてんと首を傾げる。


「何? 私に不満とか?」

「いや! それはまっったく無い! 天に誓って言える!」

「そんな力んで言わなくても……。でも、だったら何でいきなり?」


 関定は途端に○○から顔を逸らす。言いにくそうに後頭部を掻いた。

 ○○は彼の返答を待つ。強くなった風に踊る髪が頬を叩いて、それが鬱陶しくて髪を押さえる。

 やがて、


「何かさ、何つーか……オレら、倦怠期っぽくね?」

「は――――はあぁ?」


 思わぬ答えに○○は頓狂(とんきょう)な声を出してしまった。
 いや、だって……倦怠期?
 倦怠期って、いやそんな筈ないじゃないか。


「……馬鹿?」

「蘇双みてぇなこと言うなよ! だから言いたくなかったんだ……!」

「蘇双じゃなくても言うから、多分」


 呆れて溜息も出てこない。
 どうしてまた、彼はこんな風に思うのか。別に○○は関定に飽きたとか、そんなことは全く無いのに。


「何かあった?」

「いやぁ……まぁ、オレら付き合いだして相当経つだろ? 最近○○が素っ気無い気がして……まさかなー、と思いまして」

「あ、うん。関定が本当に馬鹿なんだってことが分かった。今日から馬関定って呼ぶことにするわね」

「酷ぇっ!!」


 がくりと肩を落とす関定に、○○は苦笑する。

 倦怠期だからって、クサい科白を言い出すなんて、本当に馬鹿だ。
 ただ好きかどうか訊いてくれればちゃんと答えるのに。
 素っ気無かったのは、猫族の今の状況を憂鬱に感じていたからだ。関定が嫌になったなんて有り得ない。
 関定の顔を覗き込んで、笑いかけた。


「あのねぇ馬関定。私、別に倦怠期じゃないと思うわよ」

「……もうその呼び名定着してるし!」


 更に落ち込む。
 ○○は彼の顔に口を寄せた。頬に弾むような口付けをする。

 関定はぎょっとして顔を上げた。真っ赤だ。


「な、○○……!」

「ほら、倦怠期はこういうことしないでしょ」

「……!」


 関定はがばりと抱きつこうと手を広げる。
 接近してくるのを○○は避けた。


「ちょっ!?」

「はいすぐ調子に乗らない」


 関定のくすんだ銀髪頭をぺしりと叩き、彼女は下邱へと歩き出す。――――人間と猫族が共存する下邱へ。


「ちょっ、○○!」

「ねえ、関定。猫族はこれからどうなると思う?」

「は?」


 追い付いたところで、○○は関定に問いかけた。
 それに、関定は片眉を上げる。


「これからって……ずっとここにいるんじゃねぇの?」

「周りの人間が放っておかないでしょう? 曹操も、一旦引いただけなんだし」


 未来、自分達はどうなるのか。
 不透明だから、怖い。
 流れる雲を仰ぎながら、○○は息を吐き出した。

 すると、関定が彼女の頭を叩くのだ。


「お前も結構な馬鹿だよな」

「え、侮辱?」

「今は今を楽しんでりゃ良いんだって。気楽に行こうぜ」


 それに何かあったらオレが守ってやるから。
 叩かれた次はくしゃりと撫でられた。○○の猫耳がぴくりと動く。
 関定は笑った。


「な?」

「……うん」


 ○○は目元を和ませて、頷いた。

 風が吹いて○○の髪をさらう。
 関定はそれを掻き分けて、○○に顔を近付ける。

 彼女は、今度は避けなかった。



●○●

 きらら様リクエストです。

 混血か、純血の猫族かとありましたのでこの話では純血の猫族という設定です。あと関羽と違い戦力外です。
 幼馴染みから恋人へというありがちな馴れ初めです。

 夢主が怒髪天を突くのはいつなのかは、ご想像にお任せ致します(^-^)

 初めまして、きらら様。
 この度は企画にご参加いただきまことにありがとうございました。お気に召していただければ幸いです。

 お持ち帰りはきらら様のみになります。



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