紅ねこ様





†リクエスト内容
 学パロ。
 夏侯惇と夢主の話。


※拍手の学パロと同設定です。



 幽谷は手にした手紙を見ながら体育館裏へと向かっていた。
 手紙の内容は話があるから会って欲しいと至ってシンプルで、体育館裏への呼び出しだった。
 何となく、手紙の差出人が何をするつもりなのか分かっている。こういったことは何度かあるのだ。

 毎度ながら、困った。

 溜息を一つついて角を曲がれば、大きな木の下に一人の男子生徒が立っている。恐らくは一年生だろう。挙動不審な彼は幽谷に気付くなりぴんと背筋を伸ばした。

 幽谷は手紙の主は彼かと、男子生徒の前に立つ。


「……あの!」

「どうかなさいましたか?」

「い、いエ! それでですね……あの、手紙の、こと、なんですが……」

「はい。話があると、書かれておりましたが」


 彼は大きく、何度も頷いた。


「じっ……つはですね! お、お俺、先輩のこっ、こと……っ」

「……取り敢えず、落ち着かれて下さい。それでは言いたいことも言えませんよ」

「は、はい……」


 男子生徒は二つ深呼吸をして、つかの間沈黙した。
 落ち着くと、きっと幽谷を強く見据えてくる。それからぎゅっと手を握って幽谷に接近した。

 幽谷は気圧されて少しばかり仰け反る。


「俺、先輩のこと――――」

「そこまでだ」


 すっと。
 幽谷と男子生徒の顔の間に手が差し込まれる。
 かと思えば、手の甲で男子生徒の顔を叩いた。相当強かったのか、結構な音が立った。
 男子生徒は顔を押さえて後ろに退がった。

 幽谷は眉根を寄せて視線を右にやった。

 そこには眼帯をした、きつめのかんばせの青年が立っている。酷く不機嫌だ。


「夏侯惇殿」

「悪いが、俺はこいつに用がある」

「へ……?」


 夏侯惇はがしっと幽谷の手を掴むと、大股に歩いてその場を離れた。


「ちょっ」

「良いから来い」


 幽谷は戸惑って、男子生徒を見やった。
 彼は放心状態だった。茫然とこちらを見つめている。
 思わず立ち止まろうとしたが、それを夏侯惇は許してくれなかった。

 明日、謝りに行こうと思った。



‡‡‡




「お前はふしだらすぎる!」


 焼却炉前でようやっと立ち止まったかと思えば、夏侯惇はそう幽谷を怒鳴りつけた。

 幽谷は、何故彼がそのように憤っているのか分からないでいる。どうして、自分は彼に怒られているのだろうか。ただ手紙に書いてあった通りに体育館裏に行って、告白を受けようとしていただけなのだが。


「ふしだらって……ただ告白を受けていただけではありませんか」

「それがふしだらだと言っているんだ!」

「……はあ。ですが断るつもりでいましたし、行かなければ相手が傷ついてしまいましょう」


 夏侯惇は舌打ちする。隻眼を伏せ、忌々しそうに後頭部を掻いた。

 幽谷は片目を眇める。


「……あの、何故私は告白を受けただけであなたに怒られなければならないのです?」

「それは――――」


 彼は口を噤(つぐ)む。さっと目を逸らした。

 言えないのは理由が無いからか、幽谷には言えないからか。
 幽谷は首を傾げた。怪訝そうに彼を見つめる。

 ……いや、それ以前に、大学生の彼が何故ここにいる? 夏侯惇が通う大学は、確か隣県だ。卒業生とは言え、容易く来れる筈はないのだが。


「とにかく! 幽谷、金輪際こういった呼び出しには応じるな、分かったな」

「理由が無ければ従えません」


 自分は別に、夏侯惇の部下でも何でもないのだから、確かな理由も無いのに従う義務も無い。
 ばっさりと斬り捨てれば夏侯惇の眉間に皺が寄る。


「……幽谷」

「曹操殿からお聞きしたことがあるのですが、そういう夏侯惇殿こそ、在学中は女子が放っておかなかったとか」

「んな!?」

「このようなことも多々あったとも、夏侯淵殿から自慢話として伺っております。でしたら、私があなたに責められる謂われは無いかと存じますが」


 間違ったことは言っていない。
 「では、関羽様をお待たせしておりますので」と幽谷は身を翻すと、彼から早足に離れた。

 夏侯惇は咄嗟に呼ぶが、彼女は振り返らない。
 一人残されて、夏侯惇はまた舌を打つ。

 幽谷がふしだらだとか、そんなことは無い。
 ただ、彼が嫌なだけなのだ。
 彼女が関羽と共に男女から人気であることは夏侯淵から聞いていた。それ故に気が気でない時もあった。

 偶然曹操に用があってこの学校を訪れ、ついでだからと剣道部を見たくて体育館に寄った際あの場面を見てしまったら……苛立ちが抑えられなかったのだ。
 自分でも、馬鹿なことをしたと思う。幽谷が毎回断っているのも、夏侯淵の話から知っていた筈なのに、焦ってしまったのだ。
 どうしてそんな風になってしまったのか、自分でも分からない。
 自分が幽谷をどう思っているのかすら、彼は把握しきれていないのだ。

 幽谷の腕を掴んだ手を見下ろし、夏侯惇は深々と溜息をつく。



 嫌われなければ良いと願ってしまうのは、やはり――――そういうことなのだろうか?



○●○

 紅ねこ様リクエストです。

 学パロではらから夢主と夏侯惇ということでしたので、拍手の学パロと同設定にさせていただきました。
 凄いですね、人の告白邪魔しましたよ彼。いや、私が邪魔させたんですが(^_^;)

 紅ねこ様、この度は企画に参加して下さってありがとうございました。
 メールでのありがたいお言葉、本当に嬉しかったです。(^-^)
 これからも毎日更新を続けられるよう頑張ります!

 お持ち帰りは紅ねこ様のみになります。



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